3年前の3月11日昼すぎ、千尋さんは市内の産院にいた。「もう少しだからがんばって」。分娩(ぶんべん)室のベッドの上で看護師の励ましを受け、渾身(こんしん)の力で踏ん張っていたとき、経験したことのない大きな揺れに気を失いそうになった。停電でおなかの赤ちゃんの心音が確認できない中、吸引分娩に急遽(きゅうきょ)切り替えられ、地震発生から32分後の午後3時18分、3756グラムの大きな男児の産声が響き渡った。
安堵(あんど)の余裕もなかった。「津波が来るぞ」。医師が声を張り上げる中、千尋さんと珠音君は毛布に包まれ、看護師に抱えられながら3階から屋上に向かう踊り場に避難。間もなく産院の1階は濁流にのまれた。
「予定日がたまたま10日ほど早まって産院にいたから助かった。海沿いの自宅にいたら津波にのまれていたかもしれない」
珠音君の祖母、鶴岡弘美さん(52)や兄の蓮翔(れんと)君(8)らも産院にいて無事だった。「珠音に助けられたんですよ」と弘美さんも言う。