しかしぼくは安吾なら小説を褒めたい。『夜長姫と耳男』『桜の森の満開の下』『白痴』『青鬼の褌を洗う女』など、いずれも端倪(たんげい)すべからざる戯作になっている。失敗作と言われた長編『吹雪物語』ですら、おもしろい。
晩年は酒とヒロポンとアドルムに溺れたが、その意外な実像は、夫人だった坂口三千代の『クラクラ日記』を見るといい。ついでながら、黒田官兵衛を最初にとりあげた作家は坂口安吾だった。(編集工学研究所所長・イシス編集学校校長 松岡正剛/SANKEI EXPRESS)
■まつおか・せいごう 編集工学研究所所長・イシス編集学校校長。80年代、編集工学を提唱。以降、情報文化と情報技術をつなぐ研究開発プロジェクトをリードする一方、日本文化研究の第一人者として私塾を多数開催。おもな著書に『松岡正剛千夜千冊(全7巻)』ほか多数。「松岡正剛千夜千冊」(http://1000ya.isis.ne.jp/)