【BOOKWARE】
スティーヴン・キングの特異な才能には驚かされる。日常の隙間にひそむ「奇妙」というものを、これほど巧みに身に迫る恐怖にじょじょに変換してみせる作家は、そうそういなかった。しかもその恐怖はわれわれがどこかに必ず隠しもっているトラウマや集合的記憶にもとづくものなのだ。
キングは風変わりな少年だったようだ。父親は2歳のときに煙草を買いに行くと言ったまま帰らず、小学校1年のときは体調を壊してまる1年を休んだ。コミックばかり読む子で、家に風呂がなかったので凍えるような日も親戚の家まで歩かなければならなかった。それなのに肥満児だった。
子供時代を通して、ずっと殺人事件の新聞をスクラップしている。そのうち母からタイプライターを貰い、小品を書くようになった。高校大学はなんとか出たが、教師の職についても食えず、トレーラーハウスで寝泊まりしながら書き続けた。
1973年、26歳で書いた『キャリー』が売れた。これでやっと生活できるようになると、次に『呪われた町』と『シャイニング』を書き、そのままディーン・クーンツと相並ぶモダンホラー人気作家としてスターになっていった。その作品は次々に映画化もされたが、キングはそうとうに自尊心も強く、キューブリックの『シャイニング』は気に入らず、自分で別に監督するようなところがあった。