ぼくが大好きな『スタンド・バイ・ミー』は短編集『恐怖の四季』のなかのひとつで、原題は『死体』だ。ロブ・ライナーが映画化するときにベン・E・キングの独白的な歌をかぶせて、この題名にした。「いつもぼくのそばにいてね」という意味だ。ひと夏の少年たちの体験に、ぴったりだった。この映画の出来には、意固地なキングもさすがに感動したらしい。
キングの少年を描く手口は異様にすばらしい。平凡な町の日常の中に集う少年たちの心を、何げない出来事や符牒を合図にして、一気に邪悪と回心の遍路に引きこんでいくのである。そこにはたいてい対極者としての悪徳や超常現象が控えているのだが、その恐怖の厄災はすぐにはおこらない。なぜなら、それは少年や少女がすでに幼い頃に想像してしまっていたものでもあったからだ。
ぼくにも「いつもそばにいてね」と思っていた或る空想があった。けれどもそんなぼくの秘密も、キングの手にかかったらたちまち暴露されてしまうだろう。