【BOOKWARE】
「読書に夢中になるには国語辞典をしょっちゅう引きなさい」と中学校のセンセイに言われた。たしかに国語辞典や漢和字典は役に立った。けれどもやがて辞書や事典にはもっと愉快で痛快なものがいっぱいあることに気が付いた。
たとえば『架空地名大事典』(講談社)だ。希代の読書家アルベルト・マングェルが鋭意編集したもので、世界文学の中に出てくる地名だけが網羅されている。ぼくはこの中で「テレームの僧院」を見いだし、やがてラブレーの『ガルガンチュアとパンタグリュエル』に熱中した。
たとえば尾佐竹猛の『下等百科辞典』(批評社)である。明治大正期に「下等」だと思われた言葉や職業を当時の俗語で収集し、その解説をばっちり付けている。ぼくはここで「おかま」「かっぱらい」の由来を知った。81年ぶりに復刻されたものだ。
辞書・辞典・字典・事典には実にたくさんの種類と趣向が用意されている。そこにはいっさいの概念・人名・商品・思想・現象が詰まっている。ぼくが書棚に置いているのは700種くらいのものだと思うが、世の中には各国ごとにこの一千倍はあるだろう。キノコから兵器まで、万年筆から作曲家まで、熟語から映画まで、化学式から天体知識まで…。収録されてないものなんてないと言っていい。ぼくはこれを「モーラの法則」と呼んでいる。モーラは「網羅」のことだ。