辞典・事典にはしばしば図版・写真・挿画・図解が付いている。これを凝視するのも、たまらない快楽だ。なかには図がないと三文の価値もないものもある。たとえば西洋美術の解読には欠かせないイコノロジーという分野を知るにあたって、ぼくはまず水之江有一さんの『図像学事典』(岩崎美術社)を傍らにおくことにした。いまでは同種のものが手元に20冊くらいにふえているが、それも最初の水先案内人がなければ到達できない。
水先案内人といえば、この手のものを誰が編纂し、誰が執筆しているかということも、その後の「知の探検」の行く先を左右する。世界の神話や宗教を知るには、専門書に当たるのがまっとうなアプローチだが、2~3度しか出てこない神々の名や儀礼習慣を知るには、辞典・事典が必要になる。ただし、その場合の鋭さ・深さが問われる。宗教ならミルチア・エリアーデの一連のシリーズや、ジョン・R・ヒネルズの『世界宗教事典』(平凡社)に案内してもらいたいし、神話なら一般的なものとは別に、どうしてもバーバラ・ウォーカーの『神話・伝承事典』(大修館書店)を座右に揃えたい。ウォーカーのものはフェミニンなのである。女性はこの事典で神話を知ると、かなり愉快になるはずだ。つまり、辞書・事典は誰が書いたかが、重要なのである。