開いた口が塞がらない、というのは、こういう状態をいうのだろう。実際、時間が止まったように表情は固まったまま、この口が塞がるまで相当の時間を要した。
中国の南寧で7日行われた体操世界選手権の男子団体。日本のエース、内村航平(25)が口を開けたまま見上げる視線の先には、会場の電光掲示板があった。
映し出されたのは、最終種目鉄棒の最終演技者、中国、張成竜の得点。「15.966」。まさかの高得点でトップを走っていた日本は大逆転を許し、ほぼ手中にしていた1978年、ストラスブール大会以来36年ぶりの団体優勝を逃した。合計得点の差はまるで計ったように、わずか0.1だった。
地元開催の世界体操。会場の拍手は中国の演技のみに贈られる。逃げる日本、追う中国。ほぼ絶望的な点差で鉄棒に向かう最終演技者に、スタンドの観客はあらん限りの「加油(がんばれ)」の声援を繰り返した。
張の演技は素晴らしかった。最高難度の技を立て続けに繰り出し、大きなミスはなかった。会場の大歓声が採点の後押しをする。
だが、選手たちは、どんな演技、どんな技にどんな得点が出るか体感している。まして内村クラスの王者となれば、その誤差は100分の1単位の精密なものだ。だからこそ、逆転はあり得ないと信じていた。電光板の数字が信じられなかった。