キーヤン作品ではしばしば使われ、象徴カラーともされる「ウルトラマリン」(ブルー)で彩られた蓮の花。60面の襖絵はほぼ1人で約1カ月で仕上げた=2014年10月8日、京都市東山区の青蓮院(田中幸美撮影)【拡大】
「僕はアクリル絵の具でしか描けません。自分が一番気に入っている俵屋宗達や伊藤若冲が今の時代に生きていたら、僕と同じようにアクリル絵の具を使ったと思います」。それを聞いていた門主は、下を向いたままほほ笑んだ。「それが返事やな」。制作に取りかかった。
まず、襖と同じ大きさの絵を5面描いてみせた。紙から蓮がはみ出すほどの大きさで、「あわよくば天井まで描いてやろ」という魂胆だった。すると、日本の寺は座る機会が多いのでこれでは目線が不自然過ぎるとダメ出しされ、さらに青蓮院には小堀遠州(こぼりえんしゅう)と相阿弥(そうあみ)という偉大な作庭家と絵師による庭があり、それらと融和するように、との注文が付けられた。結局、襖の下部三分の一くらいまでを描く方針に落ち着いた。
さらにキーヤンの頭の中には壮大なストーリーがあった。最初は枯れてしなびた蓮に小さな生き物が戯れる「生命の讃歌(さんか)」の部屋、次は花が咲いている「極楽浄土」の部屋にしようと。ところが、阿弥陀経の世界では枯れることなく、花が咲いて命は輪廻(りんね)すると説かれ、枯れた蓮は描くことができなくなった。