新国立劇場(東京都渋谷区)が、日本の近代演劇に影響を与えた海外作品を新訳で上演し、現代劇の系譜をひもとく「JAPAN MEETS…」シリーズの10作目。「近代劇の父」とされるノルウェーの劇作家イプセンの「海の夫人」を取り上げた。「人形の家」が有名なイプセンが、別の角度から19世紀末の男女のすれ違いを描き、現代にも通じる結婚観の普遍性と、作家の先見性を再発見する面白さがある。
ノルウェーのフィヨルドにのぞむ街、灯台守の娘エリーダ(麻実れい)は医師ヴァンゲル(村田雄浩)の後妻となったが、生まれたばかりの息子を亡くしてからは精神的に不安定。前妻の2人の娘たち、ボレッテ(太田緑ロランス)とヒルデ(山崎薫)との関係もしっくりいかず、海で泳いでばかりいる。そこにかつての恋人(眞島秀和)が現れ、心が揺れるエリーダはある決断をする。
船の甲板のような舞台、登場人物の衣装とも生成りの白が基調。麻実はじめ安定感のある俳優陣による感情の機微が、シンプルな背景の中に浮かび上がり、変化していくエリーダとヴァンゲルの夫婦関係と、2人の娘たちの恋愛観が並行して描かれていく。何のための結婚か。好いた惚れただけでは決められないが、経済力が決め手になるのか。女性は自分で責任を持って人生を決められるか。19世紀末の男女関係は、人間関係が希薄化した現代にも切実さを持って迫る。