【アートクルーズ】
不安、孤独、絶望、悲嘆…。人間誰しもが持っている弱さや暗さを見つめ続けた鴨居玲(1928~85年)の回顧展が、東京ステーションギャラリー(東京都千代田区)で開かれている。戦後70年、高度成長とともに日本人が忘れ去ろうとしてきた「死への親近感」も、作品の中から、いくばくかの懐かしさを伴って漂ってくる。
社会の底辺を描く
「1982年 私」は、晩年の神戸時代に描いた大作。少なくとも人物15人と犬1匹が描かれている。が、どれもこれも、鴨居自身の顔に見える。絶望にうなだれ、悲しみで泣きはらし、孤独にうちひしがれている。中央に座る人物は、まさしく画家、鴨居その人に思えるが、力なく口を開け、放心状態で虚空を眺めている。といっても、誰の瞳も描かれず、中心に置かれたカンバスは真っ白で、まばゆいばかりの虚無が広がっている。
金沢美術工芸専門学校(現金沢美術工芸大学)で、洋画家の大家・宮本三郎に師事した。48年、早くも20歳で二紀展に初出品し、初入選する。その後は個展も開いて画業は順風に見えたが、やがて行き詰まりを感じるようになった。