「本の自叙伝」で、ぼくは自分がそこにみごとに「うつされている」のを実感して、おおっと驚きました。しかしモリムラ伯はこんなふうに言っていた。「表面を似せるのは簡単です。ぼくが誰かになるときは、その人物の魂とか心になろうとするんです。そうしないと何かが似てこない」。なるほど、その日、ぼくはモリムラ・アートに大事なものを持っていかれたような気がしていたのですね。ただ、それはたいそう心地よいもので、モリムラ・ムラムラするものだったのですよ。
【KEY BOOK】「芸術家Mのできるまで」(森村泰昌著/筑摩書房、2262円、在庫なし)
初期のものだが、モリムラ本の決定版である。祖父江慎の装幀もいい。20世紀末までの自伝としても堪能できる。ぼくは本書を千夜千冊に採り上げた。極め付けのヴィジュアライザーである森村泰昌は、実は言葉の哲人でもある。会話をしていても文章を読んでも、そう思う。しかも、作品の中にも世界言語が充満してもいる。そのことを知るにも本書からモリムラ入門をするのがいい。