【アートクルーズ】
私には今年9歳になる息子がいるが、いまどきの子供の例に漏れず、まだ保育園に預けていた頃から、大人顔負けでスマートフォンやタブレットを操った。あまり熱中するのは考えものだが、もし自分が幼い頃、こんな無限の宝箱のような装置があったなら、きっと同じ反応をしていただろう。どうしてもきつく叱れない。
少しは別の関心を引こうと、いろんな名作絵本を読ませようとしたが、なかなか食いついてくれない。子供にすれば、きっと古文書を与えられたような気分なのだろう。いい年をした大人だって朝から晩までネット三昧なのだ。無理もない。
筋書きも落ちもない
ところが、である。数ある絵本のなかでも、長新太(ちょう・しんた)の描いた絵本だけは、別格だったのだ。なかでも『ごろごろ にゃーん』『にゅーっ する する する』を開いてやると、とたんに目つきが変わった。どちらも筋らしき筋はまったくない。
「ごろごろ」は、猫で満席の魚のかたちをした巨大な飛行船が「ごろごろ」「にゃーん」と音を出しながら海から出発。いろんな場面をくぐり抜けて、「ただいまー」とまた海に戻ってくるまでをひたすら描いただけ。