道徳度外視で描く
会場のちひろ美術館は、もともと、児童画で知られるいわさきちひろが22年を過ごした自宅兼アトリエ跡である。あたたかい日常の体温が通っている。規模こそ大きくないが、季節の花が咲き乱れる中庭を囲むように配置された展示室は、ちょっとした迷路のように探検心をくすぐる。
その奥まったどんつきにあるのが、今回の展覧会のハイライトとなる展示室4である。細い廊下を進んで入り口を目指し、一歩足を踏み入れる。すると、なにか巨大な体育館に足を踏み入れたかの錯覚に陥る。色とりどり、かたちもグニャグニャの長ワールドが、壁と床とを問わず全開されているのだ。
子供に見せるためだけではない。長新太の絵本に魅せられた大人は、たくさんいる。でも、本は1ページ1ページめくって見るものだ。同時に違うページを見ることは無理がある。だから、こんなにたくさんの長の絵を、順番や大きさもまったく無関係に、一挙同時に見るのは、まったく初めてのことだった。うまく言えないが、これが凄(すご)いのである。というか、凄(すさ)まじいのである。