子供になにも教えない
長の絵は、子供になにも教えようとしていない。それどころか、教えることで失われてしまう大切ななにかのほうに、力ずくで引き戻そうとさえする。そのときに心のなかで発せられる音が、きっと「にゅーっ する する する」なのだろう。
そんな絵が部屋の全面に貼られて、こっちを向いて「見てくれ、見てくれ」といっせいに自己主張を始めるのだから、その様子たるや、凄まじくないはずがないではないか。(美術批評家、多摩美術大学教授 椹木野衣(さわらぎ・のい)/SANKEI EXPRESS)
■さわらぎ・のい 1962年、埼玉県秩父市生まれ。同志社大学を経て美術批評家。著書に、「戦争画とニッポン」(会田誠共著、講談社)、「アウトサイダー・アート入門」(幻冬舎新書)、「後美術論」(美術出版社)、「日本・現代・美術」(新潮社)、「シミュレーショニズム」(ちくま学芸文庫)ほか多数。現在、多摩美術大学教授。
【ガイド】
■「没後10年 長新太の脳内地図展」 8月2日まで、ちひろ美術館・東京(東京都練馬区下石神井4の7の2)。一般800円。月曜休館(祝休日は開館、翌平日閉館)。(電)03・3995・0612。