フランスやスペインといった宗主国の変遷を経て、ヨーロッパとの結びつきが強くなったニューオーリンズの街角では、文化の多様性を反映したさまざまな音楽が今も昔も流れている。
日曜日に限って音楽を奏でることを許された黒人たちは、コンゴ広場に集まり、抑圧された実生活を忘れるため自由に楽器を鳴らし歌い踊った。アフリカ系アメリカ人の持つ独特のリズム感覚が、フランスを中心としたヨーロッパの音楽と出合い、軍楽隊が使っていたトランペットやクラリネットなど西洋楽器を使う新たな音楽が生まれた。それこそが「ジャズ」であり、ニューオーリンズがジャズ発祥の街といわれるゆえんだ。
がま口の男「サッチモ」ことルイ・アームストロング(1901~71年)は、ニューオーリンズの貧困地区で生まれ、幼い頃からダンスホールや売春宿で流れる音楽に囲まれて育った。街のブラスバンド、ミシシッピ川を行く蒸気船で腕を磨き、22歳でニューオーリンズを離れる。その後シカゴ、ニューヨークへ移り住み、やがて20世紀を代表するジャズミュージシャンへと上り詰めた。