花緑は祖父の五代目柳家小さん(やなぎや・こさん、1915~2002年)から戦争体験を聞いた。召集された小さんは慰問で落語も披露、兵士たちを勇気づけたという逸話が加東の姿とだぶるという。花緑は「祖父は生前、加東さんと接点があったはず。聞いておけばよかった」と悔やむ。
加東は出征前日、実姉の女優、沢村貞子(1908~96年)宅でみち代と日本舞踊「鶴亀」を披露した。「見事だった」と沢村が書き残したその舞を、花緑と大和は再現する。「行く方も待つ方もつらい。残っているその時のお二人の写真は、いろんなものがそぎ落とされた、決意したような表情。そんな夫婦のつながりを踊りで表現したい」と大和は言う。
敵国から見た戦争
戦地は常に死と隣り合わせで、誰もが日本の家族を思い、生きて帰りたいと考えたろう。だが加東は、一度だけあった内地帰還のチャンスを断念した。一緒に舞台に取り組む仲間たち、喜んでくれる戦友たちを、捨てては帰れないという思いからだ。「相当な葛藤があったはず。でも戦地で役目を全うしようという、正義感のある実直でまっすぐな人。その真面目さを出したい」と花緑は話す。