≪見えないものが見えるように、無いものが有るように≫
写真展のテーマである「御生(みあれ)」とは、命=いのち、を生む神秘的で大きな力のこと。新木宮司は井浦さんに「この展覧会では、見えないものが見えるように、無いものが有るように、その心をかたちに表してほしい」と依頼した。真夜中から暁にかけて、下鴨神社の糺(ただす)の森で撮影をしつつ時間を過ごすのが好きだったという井浦さん。そのときに感じていたのは、生きとし生ける全ての命が再生するような気持ちだった。その思いを新木宮司に伝えたところ、その不思議な感覚は、「御生」そのものではないか、そして式年遷宮(しきねんせんぐう)そのものが「御生」なのだと考えるに至った。「写真展のタイトルは、この『御生』以外にないと思いました」
展示場所は、下鴨神社の境内にある重要文化財の神服殿(しんぷくでん)。神服殿とは、行幸のときに玉座となる殿舎のことで、天皇陛下しか立ち入れない休憩所のこと。とりわけ玉座は「開けずの間」とも呼ばれ、何びとも入ることを許されない。井浦さん自身、この格式高い場所での開催を聞いて、誰よりも驚いた。そして、300年以上も前に建てられた入母屋造(いりもやづくり)、桧皮葺(ひわだぶき)の建物を見て、いかにしてその一部となり得るのか、場になじむ展示を考えた。