【本の話をしよう】
私は読み狂人。朝から晩まで読んで読んで読みまくりたる挙げ句の果て読みに狂いて黄泉の兇刃に倒れたる者。そんな読み狂人の私は古(いにしえ)の文章を読むのが好きだ。なぜなら古の文章には現代の文章にないものがあるからで、そのないものを読むために古の文章を読んでいる。
遠ざかるほどふんだんに
と言うと、「古と言ってそれはいつ頃のことを指すのか。いったい何時代のことを言っているのか」と仰る方がおらっしゃるかも知れないが、なアに、なに時代でもかまわない。いまよりも前だったらいつだってよい。といって一分前とかそういうのは駄目、まあ、三十年だとまだ新しくてあるものしかないが、五十年前の文章だと、確かにないものがある。
そうしてこれを読んで、うわっ、ある、ないものがある。ないものはないはずなのに、ここには確かにある、なんと凄いことだ、味わいの深いことだ、これは書巻の徳に違いないが、しかし同時に奇蹟でもある。よろこばしいことだ、とひとりで興奮、脳内でうどんを花火として打ち上げて、脳外で歌い踊り、傍から見れば確かに読み狂人、人としてあってはならない浅ましい姿と成り果てている。