ネズミの道とは関係ありません。嵐の前の静けさというような、渋谷へ向かう裏通り=2016年1月3日(長塚圭史さん撮影)【拡大】
もしくは人類の脅威ともなるべきウイルスがこの小さなドブネズミを死に至らしめており、私なんぞぶらりとのぞきこんでそのままスイスイ歩いていってしまったけれど、その後すれ違った父親と手をつないだ少年が思わず踏んづけてしまい、やあネズミを踏んづけてしまったよ、などと泣いて騒いで、公園で洗ったりいろいろしている内にむしろ方々へ散らばって、靴を洗ってあげたお父さんが感染、公園の水場を後に使用したホームレス、踊り疲れた二日酔いの若者などが次々感染。人間においてはそこそこに潜伏期間があるものだから、気がつかないうちに接触した家族やら恋人やら会社やら学校やらへぐんぐん広まって、その後いっきに発症。渋谷の街角の小さなドブネズミの死から東京壊滅まで瞬く間に進行してしまう。なんてことはないだろうが、それくらい、少し不自然な場所で、妙にすっきりと死んでいる小さなドブネズミであった。
少年時代、道端で出会う小動物への好奇心は、都会に住んでいるがゆえにむしろ熱く、何でもつかんでやろうとしたものだ。