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忘却の街・渋谷にて、小さな悲劇を考察する 長塚圭史 (5/5ページ)

2016.1.9 10:00

ネズミの道とは関係ありません。嵐の前の静けさというような、渋谷へ向かう裏通り=2016年1月3日(長塚圭史さん撮影)

ネズミの道とは関係ありません。嵐の前の静けさというような、渋谷へ向かう裏通り=2016年1月3日(長塚圭史さん撮影)【拡大】

 あの小さなドブネズミの死骸だって当然、私は触らなかったが、そのすぐ横は通ったわけで、もしドブネズミが悪性のウイルスを持っていたとしたら、それは死骸辺りには何となく散らばっていたかもしれないわけで、つまり多少なりとも私の靴裏は汚されており、しかし私は消毒するでもなくその靴を使い続け、間違って友人の足を踏んづけてしまったりしているのである。という世界に生きているのだと思うと、それなりに人間はたくましいじゃないかと、むしろ誇らしくなるのだ。

 帰りに同じ横道を歩くと、小さなドブネズミは消えていた。清掃業者が片付けてくれたのだろう。この道の真ん中でドブネズミが何らかの理由で死んだ、という事実はこうして忘れ去られてゆくのだなあと、朝のゴミためが嘘のように片付いた渋谷の街をぶらぶら眺めていると、カア、と一声、鴉が鳴いて飛び去った。(演出家 長塚圭史、写真も/SANKEI EXPRESS

 ■ながつか・けいし 1975年5月9日、東京生まれ。96年、演劇プロデュースユニット「阿佐ヶ谷スパイダース」を結成。ロンドン留学を経てソロプロジェクト「葛河思潮社」を立ち上げた。作・演出の舞台『ツインズ』が11日まで大阪・森ノ宮ピロティホールにて上演中。その後、1月16、17日に北九州、1月23、24日に長岡、1月30、31日に松本にて上演。

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