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【溝への落とし物】お前さ、もっと可愛くなんないと 本谷有希子 (1/4ページ)

2016.1.23 10:30

まだ膨らむ前の野良(本谷有希子さん撮影)

まだ膨らむ前の野良(本谷有希子さん撮影)【拡大】

  • 劇作家、小説家、演出家、本谷有希子さん(本人提供)

 出産のため、3カ月ほど実家に居座っていた。前にも書いたが、うちの実家にはスピッツ犬が1匹いて、母の膝上で抱っこされているその姿は、犬のくせに実の娘の私なんかより、よほど血がつながっているように見えるのだった。

 その犬が、ハゲ出してしまった。去年の10月に私が子供を産んだことが原因である。本谷家で初めての孫にスターの座を奪われたワンコは、かわいそうに、首のところに十円玉ほどの肌色の円が見つかったのを皮切りに、するすると毛が抜け出して止まらなくなった。

 「あんたのところの猫2匹は大丈夫なの?」

 心配する母親に、私は笑いながら答えた。

 「大丈夫大丈夫。私は、ちゃーんと平等に可愛がるから」

 そうして、いよいよ東京の自宅に戻る日がやってきた。3カ月ぶりの帰宅である。先に送っておいた赤ちゃん用のバウンサーに娘を寝かせると、血統書付きのほうの猫は、まるで赤ん坊など見えていないかのように、部屋をうろうろし、澄ました顔をしている。もう1匹の、保護してほしいと頼まれて引き取った野良猫のほうといえば、物陰から微動だにせず、こちらをぎろっとうかがっている。

変わり果てた飼い猫

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