勝って泣く田中史朗(ふみあき)を、敗れた大野均(ひとし)が抱く。大野の左手は田中の頭に、田中の左手は大野の腰に。2人の右手は腹の前で、がっしりと握り合わされていた=2016年1月24日、東京都港区の秩父宮ラグビー場(共同)【拡大】
キックは無情に左に外れ、パナのフィフティーンは歓喜に飛び上がった。日本代表とパナをスクラムハーフとして率いてきたゲームメーカーの田中史朗はその瞬間から泣き出した。いやW杯以来、涙もろくなっているという田中は、会場入りして満員のスタンドを見たとき、もう泣きそうだったのだという。日本ラグビーの低迷期を知るベテランであるからこその感動、感涙だった。
思いは同じだったのだろう。泣く田中を抱きとめたのは、東芝のミスターラグビー、大野均だった。37歳、日本代表最多96キャップの鉄人。がっしり抱き合った2人の右手は固く握り合わされていた。
男の抱擁が、もう一組。キックを外した東芝のステインに真っ先に駆け寄り、肩を抱いたのはパナのプレースキッカーで豪州の英雄、ベリック・バーンズだった。1点差に追いすがる東芝のトライはステインの70メートル独走が生んだものだ。息を整える間もなく、本職ではないプレースキックを優勝の行方を決める最後の場面で任されるプレッシャー。世界を舞台にこんなシーンで蹴り続けてきたバーンズには、彼の苦悩が痛いほど分かったのだろう。