月例経済報告関係閣僚会議に向かう日銀の黒田東彦総裁=25日、首相官邸【拡大】
総務省が25日発表した8月の全国消費者物価指数(生鮮食品を除く)は原油安でエネルギー価格が落ち込んだため、前年同月比0.1%低下した。物価のマイナスは日銀が黒田東彦(はるひこ)総裁の下で大規模金融緩和を始めた平成25年4月以来2年4カ月ぶり。市場では第3の金融緩和を求める声が多いが、政府は消費抑制につながる物価の急上昇を牽制(けんせい)し始めた。日銀は市場と政府の“板挟み”に陥り手足を縛られつつある。(藤原章裕)
品目別にみると、円安の影響で輸入食料品や訪日外国人の増加を背景に宿泊料は上昇したのに対し、ガソリンや電気代などのエネルギー価格の下落幅(10.5%)が上回った。
消費者物価は前年を上回る状態が続いたが、昨夏からの原油安で上昇幅が縮小。今年7月には前年比横ばいとなり、上昇は2年1カ月で途絶えた。このため、「平成28年度前半ごろに2%」という日銀の物価上昇目標の達成はほぼ不可能とみられている。
しかし、黒田氏は25日、生鮮食品とエネルギーを除く8月の消費者物価が1.1%上昇したことを記者団に明らかにし、「物価の基調はしっかりしている」と改めて強調した。
実際、食品などの店頭価格動向を示す東大日次物価指数(7日平均)は8月21日から9月23日まで1カ月以上も1%を超えている。
大和証券の野口麻衣子シニアエコノミストは「物価の上昇幅は大きく、追加緩和の必要性は感じない」と分析する。
ただ、原油価格は日銀のシナリオ通りには上昇していない。産経新聞が8~9月に実施した主要企業アンケートでも、81%が目標達成に否定的な見方を示した。物価のマイナス幅が大きくなれば、企業や家計にデフレ心理が広がる恐れもある。
SMBC日興証券の牧野潤一チーフエコノミストは「追加緩和して物価目標を貫徹するという気合を示さなければ、日銀の信認は損なわれ、円高・株安を誘発するリスクもある」と唱える。
安倍晋三首相は25日の記者会見で「もはやデフレではない」と発言した。中小企業や家計からは「円安による物価高がしんどい」という不満も根強く、政府は物価至上主義に距離を置き始めたようにもみえる。
日銀は、円安を助長する追加緩和に踏み切れば政府や家計を敵に回し、見送れば市場の失望を招きかねない。どちらを選んでも厳しい立場に置かれる。