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資格取得から禁煙まで手当支給 人材投資怠らないフジキンの狙い

ニュースカテゴリ:企業の経営

資格取得から禁煙まで手当支給 人材投資怠らないフジキンの狙い

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フジキンの工場内に張り出された資格取得者の一覧表と帽子に付けたバッジ。資格取得者に手当てを支給し、奨励する(同社提供)  国内市場の縮小やグローバル化の進展など企業を取り巻く環境が厳しさを増し、社員の能力向上が一層求められるようになった。このため業務に有用な技術習得は業界を問わず盛んだが、「自己管理は個人の責任」ともされ、達成したところで目に見える形で社員に報いる企業は少ない。しかし、精密バルブ製造大手のフジキン(大阪市北区)は、資格を取得した社員に対し毎月手当を支給するほか、禁煙やカフェイン自粛など健康管理まで支給対象とする手厚さだ。経費削減に血眼になる企業が多いなか、ここまで社員に報いる同社の狙いとは-。

 会社負担は年6000万円

 「高圧ガス製造保安責任者」。フジキンの大阪柏原事業所(大阪府柏原市)では、取得した資格が書かれたバッジを作業帽に付け、社員がきびきびと働く。掲示板には、資格を取った社員の顔写真入りの名札がズラリ。

 「資格取得の動機付けになっています」と同社ES人事総務部の岡田至功係長。後押しするのは、フジキンが誇る「資格取得奨励制度」だ。

 手当の支給対象となる資格は計118。高圧ガス製造保安責任者、非破壊検査技術者など製造現場に関係する資格はもちろんだが、TOEIC、基本情報処理検定、環境社会検定など多岐にわたる。難易度の高い公認資格だけでなく、製品の品質管理知識のように社員が講師となってテストをし、認定する社内資格まで対象とする幅広さだ。

 支給額は、難易度などにより月500円から1万2千円まで。一度取得すると退職するまで支給が続く。30年ほど前の制度創設から年々取得者が増え、今や9割以上の社員が何らかの資格を持つ。10件以上の資格を取得し、毎月5万円ほどの手当を稼ぐ“猛者”もいる。

 会社の負担額は年6千万円にのぼるが、同社は「社員の意識、能力が高まるならかまわない」と意に介さない。支給の対象となる資格の種類は年々増える傾向で、今後も継続する方針だ。 

 断コーヒーにも手当

 「人こそ財宝」

 人材投資を怠らない背景は、同社が掲げる根本理念だ。「『最初は未熟でも、磨けば光る』という理念を教育の基本にしています」と、ES人事総務部の伊藤晃アクティビティ・ゼネラルマネジャーは説明する。万一会社がなくなったとしても路頭に迷わないよう、社員に能力を高めてほしいという願いもあるという。

 こうした考えに基づき、制度はさらに拡大。社員の健康管理は重要との考えで「非喫煙・禁コーヒー・禁ジュース手当」まで誕生した。

 社内の完全禁煙に加え、コーヒー、ジュースの飲用を一切控えることで、最大で月8千円を支給する。コーヒーとジュースの禁止はカフェインや糖分の嗜好品を控えてもらうほか、喫煙習慣がない社員にも健康意識を高めさせようという考えだ。

 また、週に1回、任意参加で午前6時半から2~3キロジョギングする「早朝自主トレ」を開催し、健康づくりを支援する。

 健康、安全確保へ至れり尽くせり

 社員の健康管理を重視する姿勢は、社員一人一人が元気に働くことが社業発展につながるという考えが根底だが、創業者の小島準次氏が40代で早世したことも背景にある。

 こうして培われた社員を大切にする社風は随所にある。二十数年前、マイカー通勤中に交通事故で亡くなった社員の命日は、今も欠かさず全社員が黙祷(もくとう)をささげる。また、安全のために社内ルールで電車の乗り方まで定めており、社員の安全と健康のためには「至れり尽くせり」だ。

 同社に途中入社した伊藤さんは「ユニークな制度が多く、社員を大事にする社風を感じた。各種手当で実質的に賃金が増えており社員に好評だ。

 勤労意欲につながっている」と話す。社員の“自分磨き”は、半導体製造装置用のバルブ機器で圧倒的な国内シェア1位を誇る同社の原動力にもなっている。

 人件費削減の流れとは一線を画すフジキンの「逆張り」戦略。社員の満足度アップは会社の実績を支え続けている。(内山智彦)

◇会社データ

 本社=大阪市北区芝田1-4-8

 創業=昭和5年5月

 資本金=33億円

 事業内容=精密バルブ製造など

 売上高=約290億円(平成25年3月期連結)

 従業員数=2100人(グループ合計)

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