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父の言葉を励みに…「努力は誰かが見てくれる」 育児工学者・小谷博子さん
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「研究者の道を続けられたのは父の励ましが大きい」と話す小谷博子さん(寺河内美奈撮影) 「お父さんのような仕事がしたい」。育児工学者の小谷博子さん(42)は、大学で研究に熱中し、自宅にいるときは日曜大工に精を出す父、元東京電機大学長の小谷誠さん(76)の背中を見て育った。
3人姉妹の末っ子で、生後半年のとき、腸閉塞(へいそく)になり、4度の手術を乗り越えた。生死の境をさまよう娘に両親は「生きているだけでいい」とのびのびと育てた。
「双子の姉とは6歳離れ、あまり遊んだ記憶がない。休みの日には父と車でホームセンターに行き、実験道具の材料を買ったり、犬小屋を組み立てたり…。父は自分で設計して作るのが好き。研究も大変なことがあったと思うけど、いつも楽しそうだった」
誠さんは高知県の農家の次男で、本人いわく、「中学の頃は劣等生」。戦争が終わり、「これからは学問」という親の意向で高校に進学。小学校時代の恩師を訪ねて勉強を教わったり、優秀な友人に刺激を受けたりしながら勉学に励んだ。
東京電機大学では脳や肺の生体磁気学を研究。同大助教授だった38歳のとき、米マサチューセッツ工科大に留学した。帰国後、100分の1秒ごとに脳の動きを計測する国産初の超伝導量子干渉計を作ることを提案。国からの約60億円の研究資金で、企業と5年がかりでプロジェクトを成し遂げたこともある。陽気で友人が多く、頼まれた仕事は断らない主義だ。
博子さんは「私に学問に関心を持ってほしいという期待はあったと思いますが、具体的に言われたことはない。ただ、学会や学生とのゼミ旅行に同行させたのは少しは期待していたのかも」と振り返る。
「人の役に立ちたい」という思いの中、博子さんは父のような研究者になることを夢見て大学院に進学。磁場が生体に及ぼす研究のため、機器のメンテナンスや実験動物の世話などで毎日、夜遅くまで研究室に通った。
しかし、20代後半で婦人科系の疾患が発覚。研究か不妊治療かを迫られる。誠さんは「研究に専念したらいい」とアドバイスしたが、博子さんは子供を授かる可能性にかけ、28歳で妊娠。周囲に迷惑をかけないように妊娠を隠したまま研究や実験を続け、博士号取得後、長女を出産した。「妊娠を告げたときの父の悲しそうな顔は忘れられない。私が研究者の道を諦めると思ったのでしょう」
博子さんは諦めなかった。出産後は以前の研究を継続することはできなかったが、乳児や親の心理など工学技術を使って科学的に分析し、子育て支援に役立てる「育児工学」に専攻を変更。第2子(長男)出産後も子育てと研究を両立させ、地域の子育て支援や出産後の女性のケアなどの活動にも積極的に取り組む。
研究に行き詰まりそうになったとき、誠さんの「コツコツ努力を続ければきっと誰かが見てくれる」という言葉を思い出す。
「仕事をえり好みするなと父からアドバイスされています。出産は女性だけができる仕事。産後鬱がなぜ起こるのか、脳の働きがどのように変わるかを解明したい」。社会に還元できる成果を求め、全力投球の日々だ。(村島有紀)
いつも応援してくれてありがとう。これからも元気でいてください。
こたに・まこと 昭和12年、高知県生まれ。39年、東京電機大大学院修了。工学博士。脳や肺など生体磁気学を研究し、同大教授などを経て、平成10年4月~14年3月、同大学長。現在、公益財団法人磁気健康科学研究振興財団(福岡市中央区)理事長、カシオ計算機(東京都渋谷区)社外取締役など。
こたに・ひろこ 昭和46年、東京都生まれ。東京大大学院修了。博士(医学)。東京未来大こども心理学部准教授。著書に『30才からのオメデタトレーニング』『出産で女性は賢くなる』、監修に『いちばんやさしいはじめてのベビーマッサージ』など。