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【鋤田正義 meets 黒木渚】約束の場所へ 少しずつ、確実に

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【鋤田正義 meets 黒木渚】約束の場所へ 少しずつ、確実に

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6月1日、全国ツアーのファイナルコンサートで渋谷公会堂のステージに立つ黒木渚=2014年、東京都渋谷区(鋤田正義さん撮影)  人生で初めてワンマンライブをしたのは、2012年3月、福岡天神のハートビートというライブハウスだった。収容人員100人ほどの老舗のライブハウスだ。ハートビートは私が音楽を始めたころからずっとお世話になっている場所であり、とても思い入れのある場所だ。

 音楽を始め、ライブハウスに出入りするようになっても数年間は細々と活動する日々が続いていた。必ず見に来てくれていた親友たった一人しかフロアにいない日もあったほどだ。しかし、活動を続けていくうちに少しずつ応援してくれる人の数は増え始め、ようやく100人に達したところでワンマンライブを企画することにした。

 この100人と一緒に

 がらんどうの客席に歌いかけていた数年間を思うと、100人という人数が集まったフロアは壮観だった。その日、私はステージの上で決意した。この100人を武道館に連れて行こうと。それは、新人のアーティストが公言するには、おこがましい願いかもしれないと思う。

 しかし、地元のライブハウスから最初の100人とともに出発し、道中たくさんの人を巻き込みながら、ようやく武道館にたどり着くその日を思うと、目指さざるを得ないのだ。約束の達成を喜ぶ歓喜の声、昔から応援してくれている人も、途中から旅に加わった人も一緒くたになって同じ歌をうたう。私はきっと泣いてしまうだろう。そんな一日が欲しくて、とにかく突っ走ることにした。

 ワンマンの会場は少しずつ大きくなり、全国ツアーも回れるようになった。各地でワンマンライブをするたびに、「一緒にもっと広い景色を見に行こう」と言い続けてきた。でも、実は武道館へは、私がみんなを連れて行くのではない。お客さんから連れて行ってもらうことでしか、アーティストはその場所へ行けないのだ。だから、それぞれの土地でワンマン会場がランクアップするたびに深く感謝する。少しずつ、確実に、みんなが約束の場所へと進み始めている。

 全員が子供に戻る

 とはいえ、現実的に考えてその道のりは険しい。頑張ったからといって必ず行けるという場所でもないことは分かっている。けれど、決めてしまわないことには何も始まらないじゃないか、と、逆算で考えることにした。その結果、前回の全国ワンマンツアーでは、渋谷公会堂クラスの場所でファイナルを実現できていなくてはならない計算になった。半年でお客さんを3倍に増やさなければならない。もう覚悟を決めるしかない。事務所も一緒に腹をくくって、渋公公演を決定した。当日までは正直あまり詳細な記憶がない。ひたすら全力で走り続けていた。この公演が成功しなければ先が見えない。そして、6月1日、黒木渚は無事にライブを終えることができた。全国から東京に集まってきたお客さんと、スタッフたちみんなで最高の一晩を過ごすことができた。ワンマンライブが行われている2時間だけは、全員が子供に戻ることができるのだ。主婦も係長もトラックのドライバーも看護師もみんな、純粋な子供に返って自由に過ごす。その空間で交わされた約束事は、私たちが子供の時に交わした秘密の約束と同じ純粋さでお互いの中に残る。一緒に行こうと言った場所に「よもや行けまい」と子供は疑ったりしない。愉快で勇ましい私たちの行進が、必ず行きたい場所へ続いていると信じている。(文:九州出身の音楽アーティスト 黒木渚/撮影:フォトグラファー 鋤田正義/SANKEI EXPRESS

 ■すきた・まさよし 1938年、福岡県生まれ。広告、音楽、映画などの仕事で今日に至る。近作は、忌野清志郎写真集『SOUL』(2012年)、デヴィッド・ボウイ写真集『BOWIE×SUKITA Speed of Life』(2012年)など。12月4~9日、東京・青山スパイラルにて写真展『Time-DAVID BOWIE by MASAYOSHI SUKITA』を開催。http://sukita.jp/

 ■くろき・なぎさ 九州出身の音楽アーティスト。「SUMMER SONIC 2013」「COUNTDOWN JAPAN 13/14」などの大型フェスにも出演。8月20日にライブDVD『「革命がえし」ツアーファイナル 渋谷公会堂 2014』を通販限定でリリースした。www.kurokinagisa.jp

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