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作品が終わったところから「アゲイン」が始まる 映画「アゲイン 28年目の甲子園」 中井貴一さんインタビュー

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作品が終わったところから「アゲイン」が始まる 映画「アゲイン 28年目の甲子園」 中井貴一さんインタビュー

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「僕は本当は医者になりたかった」と明かす中井貴一(きいち)さん=2015年1月7日、東京都中央区(今井正人撮影)  冷や飯しかあてがわれなくても、それを実にうまそうに食ってみせる人というのが、どこの組織にも1人くらいいたりするものだ。だからこそ人生は面白く、生きてみる価値もある。中井貴一(きいち、53)主演のヒューマンドラマ「アゲイン 28年目の甲子園」(大森寿美男(すみお)監督)は、そんな男たちの人生のささやかな輝きを丁寧にすくいとった物語だ。

 中井の役どころは名門野球部の元球児で、今はスポーツ新聞社に勤めるバツイチのサラリーマン。何かと反抗的な年頃の一人娘に手を焼く父親でもある。そんな主人公があることをきっかけに、かつての高校球児たちが再び甲子園を目指す「マスターズ甲子園」に長い年月を経て出場する決意を固める。「これまでも、特別な人というよりも、どちらかと言えばどこでも見かけるような、ごく普通の人物を演じることが多かったんです。そのせいか、物腰が自然で、力みのない人間をやりたいなとずっと思ってきました」。中井はこの役どころと出会えたことを幸せに思っている。

 似た境遇の人は多い

 本作は重松清(51)の原作小説を映画化したものだ。今では野球と距離を置く、坂町(中井)や高橋(柳葉敏郎)には、同じチームの部員が起こした不祥事により甲子園出場を目前に夢を断たれるという、忘れたくても忘れられない苦い思い出があった。それから数十年。かつて不祥事を起こした同窓生の遺児である女子大生(波瑠)が突然坂町の前に現れ、「マスターズ甲子園」への参加を求めてきた…。

 年頃の娘を持つ父親にとっては、本作は、気難しい彼女たちとの距離の取り方を学ぶことができる絶好の機会ともなるかもしれない。父親役を演じることが多い中井は、やはり娘を持つ同級生の友達との会話の内容を役作りの参考としているそうだ。「大学生や社会人になった娘に『洗濯物お父さんのと一緒に洗わないでね』と言われたり、『お父さんは臭いって言われちゃったよ』とぼやく友達を見ていると、大なり小なり、この物語の坂町と似た境遇の方は多いのでは、と感じるんですよ」

 ただ、中井は父親にだってつらいことばかり続くわけではないとも思っている。惨憺(さんたん)たる経験談にまぎれつつも、血のつながりは特別なもので、父親と娘が分かり合える瞬間というものも必ず見いだせるというのだ。「生意気ざかりの娘さんにも、いずれは親のありがたみが分かるときがくるわけです。それが親子が分かり合い、親子の気持ちがクロスする瞬間です」。映画では多少のデフォルメが施されているものの、知っておいて損はない最高の瞬間ではないかと感じているようだ。

 父の存在、意識しない

 年を重ね、ますます父親役が多くなった中井だが、役作りの際、実の父親で、事故のため37歳で早世した名優、佐田啓二(1926~64年)の存在が意識にのぼることはほとんどないという。「幼いころに亡くなったので、僕はおやじのことをあまり知らないんですよ。だからいただいた父親役とおやじのイメージをクロスさせることはありません」。ただ、映画やテレビドラマでこれだけ多くの父親を演じ続ければ、時折こんな思いが脳裏をかすめることもあるにはある。「本当に最近のことですが、自分が父親を演じているときに『おやじもこんなふうだったのかな』とね」

 家庭ばかりではなく、会社でも坂町は人生の岐路に立たされている。中井の言葉を借りれば「40歳も中盤を迎えると、会社の中でどんな方向へ進んでいくのか、自分は出世ラインに乗っかっているのか、それとも乗っていないのか…。自分は会社の組織でどう生き残りを図り、何をすべきで、どう老い支度をしていくのか-を少しずつ考え始める時期」だ。中井は「アゲイン」というタイトルをこんなふうに解釈した。「元球児が念願の甲子園でやっと野球ができた、という後ろ向きの内容ではなく、この映画が終わったところから坂町たちの挑戦『アゲイン』が始まるんです」。坂町に託した中井の信念だ。1月17日、全国公開。(文:高橋天地(たかくに)/撮影:今井正人/SANKEI EXPRESS

 ■なかい・きいち 1961年9月18日、東京都生まれ。81年、映画「連合艦隊」(日本アカデミー賞新人俳優賞受賞)でデビュー。主な映画出演作は、99年「梟の城」、2003年「壬生義士伝」、10年「RAILWAYS 49歳で電車の運転士になった男の物語」、11年「プリンセス・トヨトミ」「ステキな金縛り」、14年「柘榴坂の仇討」など。

 ※映画紹介写真にアプリ【かざすンAR】をインストールしたスマホをかざすと、関連する動画を視聴できます(本日の内容は6日間有効です<2015年1月21日まで>)。アプリは「App Store」「Google Playストア」からダウンロードできます(無料)。サポートサイトはhttp://sankei.jp/cl/KazasunAR

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