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ドラマの名コンビ スクリーンで再び 小林薫、松岡錠司監督 映画「深夜食堂」

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ドラマの名コンビ スクリーンで再び 小林薫、松岡錠司監督 映画「深夜食堂」

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映画でも抜群のコンビネーションをみせた小林薫さん(左)と、松岡錠司監督=2015年1月13日、東京都中央区銀座(野村成次撮影)  わけありの客がぶらりと訪れて、おいしい料理を食べながら人生の再出発のきっかけをつかんで家路につく-。安倍夜郎の人気コミックを原作に、深夜だけ営業する小さな食堂の人間模様を描いた人気テレビドラマ「深夜食堂」シリーズ(TBS系)が映画化された。主人公の寡黙なマスターを演じた小林薫(63)、松岡錠司監督(53)は映画編でも続投した。

 松岡監督はSANKEI EXPRESSの取材に「小林さんが『テレビシリーズの監督をやらないか』と僕を誘ってくれたのが、深夜食堂の出発点。住み慣れた映画の仕事では、より良いコンビネーションが見せられたと思います」と期待を込め、一方の小林は「深夜食堂の世界は大人のメルヘンですよ。ある種の理想郷といえるかもしれません」と魅力を語った。

 半透明な存在感

 東京・新宿の路地裏にひっそりと軒を連ねる小さな食堂「めしや」には、マスター(小林)の料理を求めて今日も大勢の客でいっぱい。愛人を亡くし食堂で新しいパトロンを見つけたたまこ(高岡早紀)、東日本大震災の被災地・福島県で熱心にボランティア活動を続けるOLのあけみ(菊池亜希子)、現地であけみにプロポーズした被災者(筒井道隆)までもあけみ目当てに食堂に日参し…。そんなある日、無銭飲食をきっかけにみちる(多部未華子)は食堂に住みこみで働くことになり…。

 マスターはお客さんに自分の意見を押しつけたり、私生活に干渉するわけでもなく、いつも静かに聞き役に徹している。お客さんにすれば、そんなマスターの心遣いが心地いいから、つい足を運んでしまうのだろう。「ときにマスターは幻であり、空であるときがあります。それでいて確固たる存在感もあります。言ってみれば、半透明人間です。でもお客さんは何かを感じて、店を出ていく。僕は小林さんに対しては『彼らの背中を押してうまく再出発させてください』という気分でいつもいました」。松岡監督は演出の基本スタンスを説明した。原作とテレビドラマで描かれなかったマスターの普段着姿にもそのスタンスは徹底されており、松岡監督は衣装合わせで「色を出さず、個性的なものを避ける」との方針を貫いたという。

 パズルのような構成

 テレビシリーズと映画編の違いはどこにあるのだろう。小林の解説が実に印象的だ。「テレビドラマは約30分の放映時間の中に起承転結がしっかりと存在していて、われわれがそのように差し出さないと、視聴者は納得しないんです。でもこの映画は起承転まで描いてますが、実は結がない。僕はそれを『映画的余白』ってよく言うんです。もっとも『ちゃんと結まで描かれました。では、はい終わりです』では映画になりません。感心するほど、この映画はそこがよくできています」。小林は映画を見る者にそれぞれの「映画的余白」を味わってほしいとの思いが強い。

 脚本を共同執筆した松岡監督は物語の展開の仕方に手を焼いたそうだ。「30分の話を単純に3~4話まとめて数珠つなぎにするだけという安易な手法はもちろんできません。いろんなエピソードを織り交ぜながら、いわば一つの物語として、物語の最後に深夜食堂ならではの読後感に着地させなければならないのです。そのためにはどんな順番で語り、どれほどの長さにし、どれほどのさじ加減で描くのか…。ジグソーパズルをはめていくような複雑さがありました。ちょっと珍しい構成だとは思いますよ」。これに対し、小林は「お客さんが食堂に忘れていった骨壺の描き方を見てほしい。なかなか物語は緻密(ちみつ)に計算されて作られていますよ」と言葉を継いだ。

 一人飲みは「試練」?

 2人にも行きつけの“深夜食堂”があるそうだ。「最終的に行く店の前にちょっとつまみながら飲むカウンターの常連といいますか…」。小林が最後まで言い終わらないうちに、松岡監督は「定食屋には行くけど、僕は一人では飲み屋に入れないんだよ。小林さんは大丈夫なの?」と質問をぶつけた。

 小林「確かに『一人では入れない』という役者もいますね。でもそれは大人の試練じゃないですか。大人の階段を上るといいますかね…」

 松岡監督「一人だと、飲むペースが分からないんですよ」

 小林「それは場数を踏むということでしょう」

 松岡監督「とはいっても、酒を飲んで、料理をつまんで、『おいしいね』って、店のマスターとカウンターで話すんでしょ?」

 小林「しゃべらなくていいのよ」

 松岡監督「じゃあ新聞を読むの? スマホいじるの?」

 小林「普通にしていればいいじゃないですか」

 松岡監督「俺、悪酔いしそうなんだもん」

 小林「まあ僕だって焼き肉屋で一人で食べるのは抵抗ありますよ…」

 取材部屋はいつの間にか深夜食堂と化し、どこかかみ合わないアルコール抜きの語りは延々と続いた。1月31日、全国公開。(文:高橋天地(たかくに)/撮影:野村成次/SANKEI EXPRESS

 ■こばやし・かおる 1951年9月4日、京都府生まれ。劇団「状況劇場」で注目を集める。主な映画の出演作は、2007年「東京タワー オカンとボクと、時々、オトン」(日本アカデミー賞最優秀助演男優賞受賞)、13年「舟を編む」「夏の終わり」「旅立ちの島唄~十五の春~」、14年「春を背負って」など。

 ■まつおか・じょうじ 1961年11月7日、愛知県生まれ。映画監督。90年「バタアシ金魚」で劇場用映画デビュー。92年「きらきらひかる」(シカゴ国際映画祭ゴールド・ヒューゴー賞受賞)、2003年「さよなら、クロ」、07年「東京タワー オカンとボクと、時々、オトン」(日本アカデミー賞最優秀監督賞受賞)、08年「歓喜の歌」など。

 ※映画紹介写真にアプリ【かざすンAR】をインストールしたスマホをかざすと、関連する動画を視聴できます(本日の内容は6日間有効です<2015年1月28日まで>)。アプリは「App Store」「Google Playストア」からダウンロードできます(無料)。サポートサイトはhttp://sankei.jp/cl/KazasunAR

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