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政治
【安倍政権考】自民党、勝ってもその人、元民主 足腰強化の余地あり
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山梨県知事選で初当選を確実にし、支持者から花束を受け取る後藤斎(ひとし)氏(左)=2015年1月25日、山梨県甲府市(牧井正昭撮影) 日本政府がイスラム教スンニ派過激組織「イスラム国」の日本人殺害脅迫事件への対応に追われている最中の1月25日、2つの大きな首長選の投開票が行われた。山梨県知事選と北九州市長選だ。自民党は、山梨県知事選で後藤斎(ひとし)氏(57)、北九州市長選で北橋健治氏(61)をそれぞれ推薦、ともに「勝利」した。ところが、後藤、北橋両氏はともに元民主党衆院議員。自前の候補を擁立できなかったあたり、党の足腰を強化する余地はまだまだありそうだ。
1月25日夜、3選を確実にした北橋氏は選挙事務所で挨拶を済ませると、北九州市が選挙区の自民党の山本幸三衆院議員(66)の事務所に赴き、深々と頭を下げた。
「政権与党と直結しての大仕事が待っております。北九州の発展のためにお力添えをよろしくお願い申し上げます」
山本氏は「私どもが責任を持って、政権与党として、地方創生の象徴になるように全力を挙げる」と北橋氏の勝利をたたえ、2人はガッチリ握手を交わした。山本氏は安倍晋三政権の経済政策「アベノミクス」の“生みの親”とされる。そんな山本氏と北橋氏が居並ぶ光景は、「十年一昔」という言葉がよく似合う。
北橋氏は民主党議員時代、岡田克也代表(61)の側近として知られ、北九州市長選に初当選した2007年は民主党や社民党などの推薦を得た。11年の前回は政党推薦を受けなかった。今回は自民党単独推薦で臨み、党総裁である安倍首相(60)が直々に党本部で北橋氏に推薦証を手渡した。
実は、自民党は独自候補の擁立を模索したが、「現職の強み」を覆すことができる候補者を見いだすことができなかった。北橋氏も中央政界で自民党「一強」の中、自民党とのパイプを強化する必要性に迫られていた。従来の支持者の反発は覚悟の上での「自民党推薦」だった。
後藤氏は、自民、民主、公明の3党の推薦を得て山梨県知事選に初当選したが、勝利をもぎ取るために自民党の推薦を欲した。自民党は独自候補の擁立を模索し、元自民党衆院議員の保坂武(たけし)甲斐市長(69)、無所属の長崎幸太郎衆院議員(46)などが浮上したが、いずれも不発に終わった。
結局、自民党が北橋、後藤両氏を推薦したのは苦肉の策だったに違いない。両氏が自民党にすり寄った側面があるのは否めないが、自民党も「勝てる候補」なら、「元民主」にこだわらなかった。昨年7月の滋賀県知事選、11月の沖縄県知事選と節目の知事選で自民党推薦候補が敗北し、自民党を守りに走らせているといえる。
さらに、同じ1月25日投開票の甲府市長選で、自民党は不戦敗を余儀なくされた。自民党は候補を擁立できず、推薦も出さなかった。当選したのは、これまた「元民主党」の県議で、山梨は知事も県都の首長もそろって民主党系になった。
かつて金丸信(かねまる・しん)元副総裁、中尾栄一元建設相、堀内光雄元総務会長ら自民党の有力政治家を輩出した山梨だが、自民党の力は見る影もない。昨年12月の衆院選で自民党候補は1区、2区ともに選挙区で敗退。県連会長、幹事長、総務会長、政調会長の県連四役(いずれも県議)は引責辞任した。当面、国会議員が県連の運営にあたり、要職は空席のままにしておくという。
自民党の各都道府県連は一連の選挙を「反面教師」にするしかないが、そもそも元民主党議員を推薦した党本部の執行部はしたたかとはいえ褒められたものではない。選挙期間中、党本部には後藤、北橋両氏のポスターが貼られていた。執行部に批判的な党幹部はこう嘆く。
「元民主党議員のポスターを自民党本部で見て、おかしいと思わないのかね。今の自民党はおかしい」(坂井広志/SANKEI EXPRESS)