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潔く咲く 潔く散る椿 当たり前の日常にある美しさ
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(大出一博さん撮影) 雪を被った寒椿の季節が過ぎて、暖かな日差しを浴びて咲き乱れる紅白の花椿を愛でる春が来た。
椿といえば茶の湯。物語なら「椿姫」、そして「椿三十郎」が頭に浮かぶ。
先日、日本屈指の帽子デザイナーとして活躍され、昨年3月に89歳で亡くなられた平田暁夫氏の命日にご自宅に伺った時、畳の間に飾られた遺影の傍らにそっと生けられた一本の侘助(わびすけ)が際立っていた。ご友人の華道家、栗崎昇さんの手によるもので、さすが! とため息。和の趣に椿の花は欠かせない。
夜の世界の貴婦人、マルグリットが紳士相手のお仕事ができる日は白、できない日は赤のカメリアの花を身に付けることから「椿姫」と呼ばれた…と悲劇の物語が始まる。アレクサンドル・デュマ・フィスが自身の実体験にもとづいて書きつづったこの名作に椿の花は欠かせない。
世界の黒澤・三船の傑作「椿三十郎」では、屋敷に潜む血気盛んな若侍たちに襲撃の時を知らせる合図として用いられたのが椿の花。隣屋敷に捕らわれた城代家老を救うべく、潜入した三十郎が庭の泉のほとりに咲く椿の花をちぎって引き水に流す。流れてくる椿を見て若侍たちが決起する。椿なくしてこの物語は語れない。
椿の花は花びらが散るのではなく、花一輪がそのままぽとりと落ちる。咲く姿も散る一瞬も、そこはかとない潔さを感じる花なのだ。(エッセー:須磨ハートクリニック院長 須磨久善(ひさよし)/撮影:ファッションプロデューサー 大出一博(おおいで・かずひろ)/SANKEI EXPRESS)
≪当たり前の日常にある美しさ≫
ツバキの学名は「カメリア・ジャポニカ」(Camellia Japonica)という。学名にジャポニカとつくのは、日本が原産国だからだ。初めて欧州に紹介したのは、江戸時代の17世紀末、長崎・出島に滞在したドイツ人医師、エンゲルベルト・ケンペル。その記述を元に植物分類学の始祖とされるカール・フォン・リンネが18世紀半ばに学名をつけた。
19世紀に入ると、ツバキは冬にも常緑で日陰でも花を咲かせることから園芸植物として欧州の人々に好まれ、豪華な花をつける新品種が次々と作られた。ブローチやコサージュなど装飾品の造形としても定番となった。オリエンタルビューティーへの憧れを象徴する存在だ。
多くの日本人にとって、ツバキは古くから暮らしに溶け込んだ花なので、それほど高級なイメージはない。そんな花が茶室で好まれてきたのは、むしろツバキがごく当たり前の日常にある「美しさ」に気づかせてくれる存在だからだろう。(佐野領/撮影:ファッションプロデューサー 大出一博/SANKEI EXPRESS)
着る人:武田百合恵、奥村ふみ
ヘア:air
メーク:ワミレスコスメティックス
スタイリスト:ユキコ・グレン
着物:鈴乃屋 銀座店(P11)。(電)03・3571・1500。www.suzunoya.com
撮影地:三留牧場(神奈川県葉山町上山口2138の1)