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極めた「和」 フレンチで進化 常識から脱却 意外な工夫 「京 翠嵐」
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上には真っ赤なビーツ(火焔菜)のフライ、周囲はパンジーの花やオリーブオイルで作ったキャビアやイクラで盛り付けたカンパチのお造り。新しいスタイルの和洋折衷だ=2015年4月10日、京都市右京区(志儀駒貴撮影)
国内随一の観光地でも知られる京都・嵐山の保津川沿いに3月、開業した「翠嵐 ラグジュアリーコレクションホテル 京都」。米系の大型ホテルチェーン「スターウッドホテル&リゾート ワールドワイド」の最高級ランク「ラグジュアリーコレクション」の日本第1号となる超高級ホテルだが、このホテルのレストラン「京 翠嵐」は、京都の伝統的な和食にフレンチの美意識を盛り込むというひと味違った和洋折衷のスタイルで、早くも外国人観光客や地元の食通の話題を集めている。
渡月橋や保津川に臨む最高のロケーションに立地する「翠嵐」。門をくぐり、築100年を超える茅葺き屋根の建物「旧八賞軒」から日本庭園を抜けると「京 翠嵐」の建物が見えてくる。
この建物、嵐山御殿と称された川崎造船所の創始者、川崎正蔵の別荘「旧延命閣」(1899年完成)をほぼそのまま利用しており、端正ながら細部にまでこだわり抜いた豪壮華麗な雰囲気に圧倒されるが、提供される料理の方にも強いこだわりやポリシーが感じられる。
三木秀俊総料理長(41)はこのレストランのスタイルについて「しょうゆの代わりに(イタリア料理で使う)バルサミコソースを使うといった単なる(和洋折衷の)フュージョン・スタイルではありません」と説明したうえで「和を極めたうえで、和にこだわらず、足りない部分をフレンチに代表される洋の要素で補完し、和をさらに進化させたものとして表現しています」と胸を張る。
例えば、空豆は和食のセオリー通りに調理するなら見た目の大切さもあり皮をむいてからゆでるが、翠嵐では和を進化させる意味で、皮の下側のジューシーでおいしい部分を残すため皮付きでゆでるという。
そんなこだわりは、お造りからだけでも十分伝わってくる。その日の鮮度によってネタは変わるが、この日はカンパチ。上には真っ赤なビーツ(火焔菜)のフライ、周囲はパンジーの花やオリーブオイルを材料に作ったキャビアやイクラを模した品で盛り付けており、お刺し身なのに、見た目はほとんどフレンチ。
しかし、お刺し身の下に敷かれているのは「パスタをイメージして作り上げた」(三木総料理長)という太く帯状に切った大根。そして、このお造り、トマトとパプリカのジュースをゼラチンでボール状にした特製ドレッシングでいただく。「ボールをお箸で潰すと中からドレッシングが出てくる趣向なんです」(三木総料理長)
魚料理も、すったかぶらと卵白、キクラゲ、鯛の身を混ぜたものを塩漬けした桜の葉で巻いて蒸したものを耐熱シートでくるんだ状態で客に提供するというユニークなものだ。
「温かくておいしいものを温かいうちに食べていただきたい」(三木総料理長)との思いから、これを客の目の前で耐熱シートから出し、春菊のペーストで作った薄めのだしをかけて供する。「一般的な和食のメニューの常識から脱却したかった」と三木総料理長。
このほか、お食事で登場するコシビ(マグロの稚魚)の握り鮨も、ネタのコシビはスモークシートで薫製の香り付けしたものを使うなど、意外な工夫がなされているほか、添えられた自家製の浅漬けも「淡泊な色合いがより映えるように」(三木総料理長)と、華やかな伊万里焼のお皿で提供するという気配りも…。
ホテル自体のコンセプトである「先人の仕事を受け継ぎ、発展させながら将来を開拓する」「継往開来(けいおうかいらい)」の精神にのっとったメニューの数々。三木総料理長は「素材の良さをもっと表現できるような工夫を追究し、日本人はもちろん、世界の人々も認める新しい料理を提供したい」と意気込んでいる。(文:岡田敏一/撮影:志儀駒貴/SANKEI EXPRESS)