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いくらでも食べられる ふんわり上品な鰻 「祇をん う桶や う」
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杉桶に鰻のかば焼きが“筏(いかだ)”状に並べられた「う桶(おけ)」(写真は5人前)。柔らかくあっさり上品な味わい=2015年5月12日、京都市東山区(志儀駒貴撮影)
京都一華やかな街といわれる祇園だが、裏通りの西花見小路は格子戸(こうしど)や出格子(でごうし)、駒寄せなど古いたたずまいが並び、落ち着いた雰囲気がある。通り沿いにある「う桶(おけ)や う」は、鰻料理の専門店で、杉桶に並べられた鰻のかば焼き「う桶」が有名。「ここの鰻ならいくらでも食べられる」という客も多く、「ミシュランガイド」で一つ星を獲得している名店だ。
大きな杉桶の蓋を開けるとふわぁっと香りが広がる。ご飯の上に“筏(いかだ)”に並べられたつややかな鰻のかば焼きに思わず喉が鳴る。これがこの店名代(なだい)の「う桶」だ。
茶碗(ちゃわん)に取り分けてもらい、さっそくひと口。ふんわり軟らかな鰻が口の中でほろりと溶けていく。香ばしさとまろやかで上品な味わいにどんどん箸が進む。
「3人前をペロリと召し上がる女性のお客さまもおられますよ」と女将の赤松志津さんが話す。「う桶」は、3人前(1万円)、4人前(1万3500円)、5人前(1万6380円)の3種類で、肝吸いと香の物がつく。
鰻のかば焼きには、鰻を背開きにして一度蒸してからタレ焼きにする“江戸焼き”と、腹開きにして蒸さずに地焼きする“関西風”があるが、この店は江戸焼き。軟らかさとあっさりした味わいが特徴だ。
背開きした鰻を串に打ち、熊野の備長炭で白焼きに。それを蒸しにかけ、軟らかくなった鰻を竹串で扱い、秘伝のタレをつけて焼き上げる。「鰻料理はシンプルですので、素材と料理人の腕にかかっております」と赤松さん。鰻は宮崎県産を中心に国産にこだわり、コメは京都米を直接農家から仕入れる。何よりもきれいな水が必要と、元はお茶屋だった建物の造作にかかる前に、手作業で井戸を掘り直してもらったという。
「開店にあたって一番にとりかかったのは井戸掘りなんです。祇園のお茶屋さんには井戸があるものですが、今では枯れているところがほとんどです。ただ、鰻屋にとってきれいな井戸水はとても大切なものですから」
また、名物「う桶」の杉桶は、人間国宝の中川清司さんがこの店のために手がけた。
「う桶」はこの店が考案した。「店が狭くしかも人通りの少ない裏通りですので、近隣のお茶屋さんに出前に行くことが多くなります。それで『う桶』が生まれました」
鰻のかば焼きは「裂き三年、串八年、焼き一生」といわれ、熟練した経験と技術が必要。鰻の状態を手で確かめ、肌で感じながら、火加減を調節して焼き上げていく。料理の世界に入って40年以上という料理長の相原清さんは「蒸した鰻は軟らかく、崩れないように丁寧に焼きます。毎度真剣勝負ですよ」と静かに語る。つややかな照りを帯びたかば焼きは職人技というよりない。
タレを均一にまぶしたご飯の上にふっくら焼かれた鰻が整然と並ぶ。熱々はもちろん、冷めてもおいしくいただける。上品な味わいの肝吸いも絶品。「鰻白焼き」や「う巻き」「うざく」「きも焼き」などの一品料理に、コース料理(要予約)もある。
「鰻は苦手というお客さまも、ここのならいくらでも食べられるとおっしゃってくださいます」と赤松さん。5人前の「う桶」を1人で平らげた男性客もいるそうで、国内外から多くの客が訪れる人気店というのも納得だ。
「おいしかった」という言葉が何よりうれしいと話す相原さんは、煙が立ちこめる中、一人で厨房(ちゅうぼう)を切り盛りする。さぞきつかろうに、「海外のお客さままで『ベリーグッド!』と言ってくださる。その言葉や笑顔のおかげで疲れなど感じません。毎日が幸せですよ」。
こちらが幸せな気持ちで満たされた。(文:杉山みどり/撮影:志儀駒貴/SANKEI EXPRESS)
※価格はすべて税込み。