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燃料取り出し時期 最大3年の遅れ 福島第1 廃炉工程表を改定
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廃炉に向けた工程表が改定された東京電力福島第1原発=2015年2月、福島県双葉郡大熊町(共同通信社ヘリから撮影) 政府は12日、東京電力福島第1原発の廃炉に向けた中長期ロードマップ(工程表)を改定した。がれき撤去作業がさらに遅れることや追加の安全対策などを盛り込み、1~3号機の燃料貯蔵プールからの燃料取り出しの開始時期を従来の工程より最大で3年遅らせた。一方、溶け落ちた燃料(デブリ)の取り出し時期や、廃炉完了まで30~40年とする全体の工程は維持した。工程表は2011年12月に策定され、改定は13年6月以来2年ぶり。
改定後の工程表では、今年度前半を予定していた3号機の燃料の取り出しの開始時期について、約30カ月遅らせて17年度とした。がれき撤去の際に放射性物質が飛散した問題や、機器の不調などで大幅に作業が遅れていた。1、2号機の燃料取り出しについても、線量低減など追加の安全対策を反映し、開始時期を17年度から20年度に変更した。
汚染水対策では、原子炉建屋などへの地下水流入で1日約300トンずつ増えている汚染水の発生量を、凍土遮水壁(とうどしゃすいへき)などを導入し16年度中に100トン未満にする。多核種除去装置(ALPS)で処理した後のトリチウムを含む水の処分に向けた準備を16年度前半までに開始する方針を掲げた。
廃炉工程で最難関となるデブリの取り出しについては、格納容器を水で満たす冠水工法に加え、水を張らない気中工法も選択肢とした。2年後をめどに取り出し方針を決定することも明記した。
福島第1原発の廃炉成功の鍵を握っているのは、デブリをどう取り出すかだ。今回の改定では複数の工法案を示しただけで、その実現可能性すら定まっていない。高い放射線量を出すデブリを取り出した後の処理方法も決まっておらず、大きな課題は先送りされているのが実情だ。
今回の工程表の改定で大きく変わったのは、1~3号機の燃料貯蔵プールにある燃料の取り出し時期が最大3年遅れたことだが、最長40年とする全体の工程への影響はほとんどない。
これまでは作業のスピードを重視したため、トラブルが頻発。作業員がタンクから落ちて死亡するなど労災事故も続発し、安全見直しのため、全ての作業がストップしたことがあった。工程への執着が逆に作業の遅れを招いた反省から、今回の改定では「全体のリスク低減」を優先する方針に転換したことが、工程見直しの要因だ。
デブリの取り出しに向けては今年4月、1号機格納容器に遠隔操作ロボットを入れて、内部の様子の撮影に初めて成功した。だが、いまだデブリの様子や位置を特定することができていない。
今回の改定では、デブリの取り出し方針を「2年後をめど」に確定させるとした。工法は、放射性物質を拡散させないために、格納容器に水を張って取り出す「冠水工法」が有力だが、容器が壊れ止水が難しい。このため空気にさらされたまま、デブリを取り出す工法が求められているが、確立されたものがない。
≪避難指示、16年度末に解除 復興指針も≫
政府は12日、東京電力福島第1原発事故で多大な被害を受けた福島の復興指針を改定し、閣議決定した。
「居住制限区域」と「避難指示解除準備区域」の避難指示を、事故から6年後の2016年度末までに解除するほか、事業再建に向けて16年度までの2年間に集中支援する方針を盛り込み、被災者の自立を強く促す姿勢を打ち出した。
避難住民の帰還促進や、賠償から事業再建支援への転換が柱。地元では帰還への環境は整っていないと不満の声もあり、被害の実態に応じた丁寧な対応が求められる。
安倍晋三首相(60)は官邸で開かれた原子力災害対策本部会議で「避難指示解除が実現できるよう環境整備を加速し、地域の将来像を速やかに具体化する」と述べた。
居住制限区域など両区域の人口は計約5万4800人で避難指示区域全体の約7割を占めるが、生活基盤や放射線による健康被害への不安は根強く、避難指示が解除されても帰還が進むかは不透明だ。
東電による「居住制限区域」と「避難指示解除準備区域」の住民への月10万円の精神的損害賠償(慰謝料)支払いは17年度末で一律終了する。16年度末より前に避難指示が解除された場合も17年度末まで支払い、解除時期で受取額に差が生じないようにする。既に避難指示が解除された地域にも適用する。
一方、第1原発に近く依然、放射線量が高い「帰還困難区域」の解除時期は明示しなかった。(SANKEI EXPRESS)