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言葉のパワーは想像以上 ローカリゼーションを使い分ける

ニュースカテゴリ:政策・市況の海外情勢

言葉のパワーは想像以上 ローカリゼーションを使い分ける

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HAKATATONTON  「お店のHAKATA TONTON(博多トントン)の名前ですが、日本人ならTONといえばブタとすぐ思いますね。フランスではTONTONは、小さい子が『おじちゃん!』と呼ぶときに使う言葉です。アメリカ人からすると、意味は分からないけど同じ音が2個並ぶのは非常に面白いそうです」

 ニューヨークで博多の郷土料理である豚足を使ったレストランHAKATA TONTONを経営するヒミ*オカジマさんが店名について語る。TONに拘ったのは、これだけの理由ではない。最後にTONとつくブランド名が多いことに気づいたからだ。たとえばホテルでいえば、ヒルトン、シュラトン、リッツカールトン。高級時計のハミルトン。ファッションならベネトン、ルイヴィトン。

 「人が無意識のうちに付加価値のあるものはTONがつくと洗脳されているようです。しかも、うちはHAKATA TONTONでTONがふたつもついています!」と笑う。

 ヒミさんは小さな時から言葉に関心が強かった。子供の頃に読んだ新約聖書に「はじめに言葉ありき」とあり、「神じゃなくて言葉が先なら神なんていらないじゃん」と思ったという。

 さて、店の売りである豚足。健康のために良い食材は沢山ある。8年前、彼は食べて綺麗になることをアピールしたらどうかと考えた。そこで目をつけたのがコラーゲンの多い豚足だった。日本国内で大ヒットした。そのあとアメリカで挑戦したが、ここで言葉の威力を発揮する。

        

 豚足は南部のソウルフードであるがゲテモノとも見られる。そこで英語の「Pigs feet」ではなく日本語で「Tonsoku(トンソク)」として紹介した。当然、お客は意味を聞いてくる。フランスの食卓に並ぶ「ピエ・ド・コション」だと答えると、フランス人が食べるものなら美味いのだろうとアメリカ人も注文する。単に豚足をフランス語に置き換えただけなのに。

 「めんたいこ」もタラの卵と言わず「博多スパイシーキャビア」という名で案内した。お客さんの馴染のある食の名前に近づけるわけだ。これらは常とう手段でイタリアならラーメンを「スープ入りスパゲッティ」と中華料理屋のメニューに書いてあるのと同じである。料理名のローカリゼーションだ。

 ただ、いつもローカリゼーションすればいいというものではない。ヒミさんの店でもローカリゼーションは使い分ける。例えば、豚足をソウルフードとするお客さんをお店に迎えた時、豚足を英語で表現する。

 「彼らはすごく喜び、それこそ『おれたちと同じだ!』とハグされました(笑)。アフリカ系アメリカ人の人たちは豚足をチタリングスというイタリア料理のトリッパみたいな煮込みにして食べるそうです」

 ヒミさんはお客さんの心や立場に気を配るのが得意なのだろう。その彼が、こう説明すればもっと海外で普及するのに、と思う料理は何だろうか。

 「そうですね、刺身を食べられないアメリカ人はまだまだ多いですが、Sashimiカルパッチョと言えば食べてくれます。今、私がアメリカで広めているのが九州の名産である『ゆずコショウ』なのですが、ジャパニーズ・ハラペーニョと言ってメキシコ産唐辛子への親近感を使っています」

 現在、来る世界の食糧危機に対して昆虫食の促進が国連などでも検討されているが、昆虫と言っただけで拒否反応を示す人が多い。

 ヒミさんも「昆虫という言葉自体を変える方が良いでしょうね。まったく別の食べ物としての提案と、これを食べることによって何がイイか?というPR。たとえば、たんぱく質やアミノ酸を多く摂取できるとか。でも一番の決め手は誰がそれを言葉にするかです」と話す。

 料理は言葉ではなくて味だと語る人は多い。それは当然なのだが、それによって言葉を軽視するのは間違いだ。「誰か敬意を抱く人がこういう表現をしたから、自分も食べてみたい」と思うのが自然だ。レストランガイドから友人のお勧めに至るまで、すべてこのルールに沿っている。

 相手の立場にたった言葉で表現しきることは想像以上のパワーをもつ。言葉がバイアスを作り、またバイアスを外すのだ。

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