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期待高まる「食デザイン」 罠を上手くすり抜けたコンセプト

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期待高まる「食デザイン」 罠を上手くすり抜けたコンセプト

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SPD理事長  デザインという言葉が民主化している。プロダクトデザインやグラフィックデザインという従来の世界だけでなく、事業企画などの世界でもデザインの思考や作業のプロセスが注目されている。

 一方、食も関心の的である。健康や食の安全という文脈がある。また豊かな生活を演出する要素としての食がある。あるいは農業という視点からも捉えられる。今、かつては考えられなかったほどに、経済人が農業や食に投資をしている。

 また毎年4月、ミラノで開催されるデザインウィークをみても、家具や雑貨も食空間を飾る作品が多くなっている。それも食べ物そのものやパッケージをデザインしたものまで範囲が広がってきた。ファッションやインテリアデザインから時代のトレンドを探るだけでなく、食から時代の考え方を掴まえるようになっている。

 このような状況のなかで食を立体的に捉えることができる人材が必要になっているのは明らかだ。シェフ、料理研究家、食品メーカーの人、農業や観光業あるいは地域活性化に従事する人。こういう人たちが、それぞれの分野にいる。しかし、これらの枠を超えて戦略的にものを考えられるタイプが求められるようになっている。

 そう気づいたのがミラノのデザイン大学、SPD (Scuola Politecnica di Design)の理事長、アントネッロ・フゼッティ氏である。

 「結局、MBA的な勉強をしてきたマネージメント層が、新しい食というテーマでイノベーションをおこせないのですよ」と挑戦的な説明をはじめる。

 SPDは1954年の創立で、現在、インテリア、プロダクト、コミュニケーション、輸送機械などのデザインのマスターコースがあるが、来年3月より食デザインコースを開く。既に定員はかなり埋まってきた。米国、インド、台湾、中国、イタリアとその他の欧州各国から入学の申込がきている。

 米国のペプシがスポンサーとなって奨学金やリサーチ費用の一部を負担する。フゼッティ氏は語る。

 「ペプシのデザインセクションには約100人のデザイナーがいるのですが、スポンサーになっていただく決定は早かったです。食をこれだけ多角的に学べるコースは世界のどこを探してもないですからね。我々の構想にペプシのセンサーが反応してくれ、私も自分のアイデアに狂いはないと確信しました。そして、これをミラノで行うことに意味があるのですよ」

 イタリアにはモノの素材から完成品を作るまでのプロセスをすべてカバーできるインフラと人材があり、売るためのショールームや販売のシステムもそろっている。そしてマーケットがある。

 これがロンドンやストックホルムなど他の「新興デザインハブ」との大きな違いだとフゼッティ氏は指摘する。

 「今、経験をどう作るかがデザインの大きなテーマになっていますが、その経験を得るには、ある程度の都会である必要があります。特に食の場合、より重要です」とイタリアのミラノである利点を強調する。

 ぼくはこのコースのアイデアを数か月前に聞いた瞬間、「うまいところを衝いたな」と思った。

 食の世界が、いわゆる「飲食業界」の枠には入りきれないところにきているとの認識はあった。そして、ともすると頭でっかちになりやすいサービスデザインなどが提案している内容を軽く超える力を、食デザインがもつのではないかと考えたのだ。

 それぞれの分野の線引きを超えたところに新しい創造的なコンセプトや問題の解決策がある、と言われて久しい。また、人を役目によって分割してみるのではなく、一人の人の24時間365日の姿を見極めないといけないと思われている。そこで今、あらゆる分野で、我こそが一番統合度合が高い(あるいは俯瞰的な立場である)との競争が繰り広げられている(ように見える)。

 しかし、我こそが総合の頂点に立つという言葉自身が実は嘘くさい。そのような表現から超越したところにしか、総合や俯瞰という言葉は似合わない。

 食デザインは、そういう罠を上手くすり抜けたコンセプトではないか。期待はいやがうえにも高まる。

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