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ヨーロッパの「SAKE」文化は次の段階へ 今後の動きから目が離せない
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(C)La via del Sake 日本酒はフランスでも人気で、パリのミシュランの星つきフランス料理店で食中酒としてワインと並んで扱われている…という日本の記事をよく見かける。そうするとフランスはヨーロッパの売り上げ上位ランキング市場と想像するだろう。
しかし、フランスが周辺国で突出した市場規模を誇るわけではない。英国やドイツなどと比べると圧倒的に小さい。フランスの人口の3分の1にも満たないオランダよりも小さい。イタリアの市場も小さいが、「酒先進国」フランスと「酒後進国」イタリアの酒イメージ差ほどに実数に乖離があるわけではない。
およそフランス、スペイン、イタリアと「ワインで飯を食っている人」が多い国で特に酒(日本酒はSAKEと呼ばれるので、酒と記す)がマイナーであることには変わりないのだ。
そのワイン大国イタリアのミラノで第1回酒フェスティバルが行われ、9月20日と21日の2日間(土日で日曜日は半日だったので実質1日半)、およそ800人が訪れた。場所はかつての修道院の庭だ。
主催はイタリアで酒や和食の普及を図るNPO「La Via del Sake(酒道)」である。代表のマルコ・マッサロット氏が本業のデジタルマーケティング企業を経営しながらの「趣味」であるが、素人技とは思えないできだった。彼は昨年初めてパリで開催された酒フェスティバルに参加して「イタリアでもやろう!」と企画したのである。
フランス、スゥエーデン、ノルウェー、ドイツなど国外のディストリビューターも出展し、ヨーロッパにおける酒ビジネスの現状や今後の課題について語り合うパネルディスカッションも行われた。
ヨーロッパの何処の国でも、この5年から10年の間に酒市場が急激に拡大している。量だけでなく高価格帯の酒も増加している。同時に次の一手が試行錯誤の状況であるとの認識も共通している。
酒のカテゴリーは分かりにくいし、それぞれの酒の性格を表現する言葉がワインのようには整理されていない。スピリッツとの誤解や熱燗で飲むものとの先入観もある。
しかも、日本文化に興味のある人達を安易に狙ってプロモーションをするステージは終わり、次の段階に移行している。この10年ほど酒の販売を手掛けてきたヨーロッパの人は、もともと日本文化に対しての好奇心や愛着が強かった。それである範囲のお客さんを得てきたことも確かである。しかし、それだけでは大きな市場にはなりえないことに気づいたのだ。
そこで、酒に対する知識や味わい方の教育をどうやっていくか。これが大きな課題だ。プロモーションするための最低限のツールを整えないといけないとの認識をはじめている、といってよい。
東京からきたアメリカ人の食ジャーナリスト、メリンダ・ジョー氏は「トップシェフたちとも話したが、酒に興味があってもどう使っていいものか確信をもててない」と話す。新しいタイプのオープンマインドなシェフたちが突進して道を切り拓いていくのだろう。
実際、一方で自ら酒を造る人も出てきた。ノルウェーのシェティル・ギチウン氏の「裸島」という銘柄がそれだ。旅客機のパイロットとして頻繁に日本を訪れるうちに酒にはまり、ヨーロッパで最初の酒蔵をはじめた。
「私は一切マーケティングをしていない。自分が欲しいと思う酒を造ったのだ。このフェスティバルでは酒について語れる多くの人と出逢えてよかった。来年はさらに充実することを願っている」と期待を込めて話す。前述のジョー氏も「裸島は2年前のものと比べて格段によくなっており、個性がはっきりとでているので有望だ」と話す。
ロンドンを拠点に酒ソムリエとして活躍する菊谷なつき氏は、以下のように語る。
「まず、酒業界のプロではない1人のイタリア人がここまでのイベントを成し遂げたことに感嘆する。他のヨーロッパ各国と比べてもイタリアは酒市場として遅れているところがあるが、このイベントも現地での販売網拡充をアシストする方向にさらに進めば期待がもてる。ヨーロッパ全般でいえば、大吟醸のような高価格帯も大事だが、エントリーレベルで市場の拡大を図るべきだと思う」
主催者のマッサロット氏は来年のミラノ万博を好機とみて、今後の策を練り始めた。和食の普及と足並みを揃えながら、イタリア料理と一緒に楽しむ酒も積極的に提案していきたい、ということだ。
ヨーロッパの酒蔵は、ノルウェーに続き他国でも新規プロジェクトがあり、これから5年ぐらいの動きに目が離せない。