『ナポレオンに背いた「黒い将軍」忘れられた英雄アレックス・デュマ』トム・リース著、高里ひろ訳(白水社・3600円+税)【拡大】
彼にとって、革命のフランスこそ「約束の地」であるはずだった。5万の将兵を指揮する彼は、敵から「黒い悪魔」と恐れられ、味方から「ムッシュー・人情家」と慕われた。イタリア制圧、エジプト遠征などでの卓抜した軍功により、古代ローマの英雄の再来と絶賛される。しかし、エジプトから帰還の途中に捕らわれ、2年間も縲絏(るいせつ)の辱しめを受けることになる。帰還したフランスは、ナポレオンの支配下で歴史の逆行が進んでいたのだ。彼の功績をたたえるどころか、黒人に対する人種差別が復活していた。1806年、彼は失意のうちに死ぬ。44歳だった。
本書によると、彼を歴史の襞(ひだ)の中から引き出し、無念を晴らしたのは、長男で作家のアレクサンドル・デュマであった。彼の代表作『モンテ・クリスト伯』の主人公エドモン・ダンテスは、無実の罪で14年間も獄舎につながれ、その復讐(ふくしゅう)を果たす。ダンテスのモデルはもろちん他ならぬ父親である。
息子は、見事なやり方で父親の仇(かたき)を討ったといえよう。(白水社・3600円+税)
評・川成洋(法政大名誉教授)