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たとえば、筋肉を極力使わせないために、部屋の動線を整えてやる。タンパク質を摂(と)らせないよう、好物の柔らかくて甘いおやつばかり積極的に与える。挙句(あげく)、さりげなく腕まくりして鍛え上げた筋肉を見せつけることで、若者である自分との差を思い知らせて絶望させる(!)。「死なせる」という物騒な目標に比して、やっていることはいちいちみみっちいのが可笑(おか)しい。
俺たちはコイツらに不当に搾取されている-冴(さ)えない日々の中でしばしば頭をもたげる、祖父の世代への不満と嫌悪。だが尊い使命に酔っている本人は、それらを御託で塗りつぶしてしまう。一方、母は健斗とは反対に、甘やかさない正しい介護で祖父にリハビリを促す。けれどそこは実の父娘関係、距離が近すぎるぶん投げつける言葉も超辛辣(しんらつ)。はたして祖父にとって、何が本当の孝行なのか?
とことん物事を表面的にしか捉えない健斗の幼稚で滑稽な解釈は、しかしその単純さゆえに、真実の一端を時おり鋭く穿(うが)つ。おためごかしなど通用しない状況で、「理解」の境界線が次第にあやふやになっていく。(文芸春秋・1200円+税)
評・倉本さおり(書評家)