ゴートクジ本楼の書棚に貼られた千社札と、弓岡勝美のコレクションを野島寿三郎らが構成したピエ・ブックスの『千社札』。千社札はうまく貼ると、どんなところも賑やかに、また色っぽくしていくものだ(小森康仁さん撮影、松岡正剛事務所提供)【拡大】
これに目を付けたのが浮世絵師たちで、色刷りをつくりだした。いわゆる色札だ。いったんそうなると、信者たちも競いあい、たちまち多色刷りの凝った千社札が流行した。
こうなると千社札は町人や商人の気っ風や遊び心をあらわすアイテムになる。仲間どうしで「連(れん)」を組み、別の連中と貼る場所を争ったり、他の千社札がみすぼらしくなるほどの豪華な札をつくる者たちも、次々にあらわれた。宣伝に利用する者も出た。
流通した札は幅が1寸6分(58ミリ)で、高さが4寸8分のもので、これを一丁札と言ったのだが、そんなものじゃ目立たないというので、横幅が2倍の二丁札、3倍の三丁札も工夫された。連札という。なかには超ワイドサイズの八丁札にする者たちもいた。
千社札はいわば「信仰の場で交換される名刺」だったのである。いまではこれがオートバイや太鼓にペタペタ貼られ、さらにはTシャツにプリントされるまでになっている。