函館のトラピスト修道院の庭で、自著『僕の音、僕の庭』を手にする井上鑑。この静かな風情の奥に、実に自在な音楽力とすこぶるラディカルな思考が秘められている=北海道・函館市(小森康仁さん撮影、松岡正剛事務所提供)【拡大】
この本には編曲論から音楽プロジェクト論まで、音の佇まいから言葉との出会いまで、ずいぶんたくさんのヒントが詰まっている。音楽関係者にとっては汲めども尽きぬものだらけだろうが、それ以上に、井上鑑がつくった手作りの「音の庭」に遊ぶことが、どれほど豊かな深さと歓びであるのかが伝わってくる。
たとえば青年の頃にイエス、ウェザー・リポート、フランク・ザッパのナマを聞いたこと、長じてジョン・ケリー、アラン・マーフィー、ピーター・ガブリエルらとロンドンで出会ったことが、井上ののちのちの「音の庭」の名状しがたい風や植栽や香りをもたらしているのだが、それをどう説明するかが、本書ではみごとな解読になっているのだ。
この才能は、お父さんがチェリストの井上頼豊で、伯母さんが矢川澄子と小池一子であることを持ち出したくなるくらいに、瑞々しい。