【KEY BOOK】「ユダヤ人」(上下、マックス・ディモント著、藤本和子訳/朝日選書、1080円、在庫なし)
ユダヤ人の歴史は格別だ。ユダヤ教を信仰する母から生まれた者たちがユダヤ人なのだから、もともとはノアやモーセ以来の母系的な万世一系の歴史が培われてきた。こんな宗教民族はほかにはいない。「神と歴史のはざま」なのだ。かれらは「さまよえるユダヤ人」(ディアスポーラ)でもあって、世界各地に離散してさまざまな血と交わりもし、他方でつねにゲットーに入れられ、何度ものホロコーストの対象になった“宿命の民”でもあった。
【KEY BOOK】「キリスト教の誕生」(ピエール=マリー・ボード著、佐伯晴郎訳/創元社、1620円)
ユダヤの民が分家分裂する中から、イエスが登場してきた。それをメシア思想と結びつけ、キリスト教にしたのはパウロたちで、それを拡大していったのは教父と司教たちである。その勢力は異端排撃と迫害受難の歴史とともに組み立てられていった。やがてアウグスティヌスが三位一体説を“創設”したが、それでも東西教会の分裂からカトリックとプロテスタントの分立まで、キリスト教の歴史はいっときも安定してはこなかった。