文字というもの、ただ読めればいいってものじゃない。本はそれらの乗り物であり、衣裳であって、抽斗(ひきだし)なのである。いまや、たいていの情報はパソコンやスマホで読めて、電子書籍もどんどんリリースされているけれど、それらに決定的に欠如しているのは、やっぱり本のテイストにこだわるフェティシズムの衝動なのである。
ぼくには本を読んでいるときのフェティッシュもある。1ページをめくるたびに、光と影がつくる陰影の微かな動きが知を刺激してくれていると思えるのだ。どんなに電子読書が便利になろうとも、この快感だけは電子には譲れない。(SANKEI EXPRESS)
■まつおか・せいごう 編集工学研究所所長・イシス編集学校校長。80年代、編集工学を提唱。以降、情報文化と情報技術をつなぐ研究開発プロジェクトをリードする一方、日本文化研究の第一人者として私塾を多数開催。おもな著書に『松岡正剛千夜千冊(全7巻)』ほか多数。「松岡正剛千夜千冊」(http://1000ya.isis.ne.jp/)