約1時間後、住民が慌てて戻ってきた。橋に引っ掛かった木を取り除こうとして坂原さんが川に流されたと伝えられた。
夜が明けると、何度も川の護岸に足を運んだ。泥水が残る自宅付近で、坂原さんの懐中電灯や愛用の青い野球帽を見つけた。「一緒に行っていれば、落ちそうになっても引き上げられたかもしれない」。鈴子さんは、乾いた泥だらけの帽子を顔に近づけ、目に涙をためながら振り返った。
結婚して50年。以前は土木業をしていた坂原さんは、行方不明になる前日も近隣の石垣の修理を手伝っていた。鈴子さんは「頼まれたら断れない人だった」。
坂原さんは近年、遍路道を巡るようになり、24日には四国行きのバスツアーに参加する予定だった。鈴子さんは「『90歳まで生きて孫の結婚式を見たい』と言っていた。元気で足腰も強かったのに」と話した。(SANKEI EXPRESS)