なぜ日本中に妖怪がいるのか。水木さんは妖怪の数と種類だけ、人間の心が何かを怖がっているからだと言う。だからそんじょそこらの心理学なんかより、妖怪学のほうがずっと大事なのである。いや、ずっと正確なのだ。それでも水木さんはときどき妖怪がほんとうに実在しているかどうかが心配で各地を探訪し、土地の人から証拠の話を聞いては、ホッと安心するのだ。
水木さんが妖怪に精通するようになったのは、幼少期に「のんのんばあ」からたくさんのお化けの話を聞いたこと、戦時に出兵したラバウルでたくさんの妖怪に出会ったこと、この二つの体験にもとづいている。以来、戦争に敗けた日本人は、どんなときも妖怪を密接に感じていなければならないと確信した。詳しくは本人がマンガに仕立てた大著『水木しげる伝』を読まれるといい。
『河童の三平』は日本マンガ史上の傑作である。『ゲゲゲの鬼太郎』は日本民俗学の金字塔である。ぼくはかつて、そんな水木さんに織部賞(磯崎新審査委員長)のグランプリを差し上げた。感想のマイクを向けたら、「ふっふっふ、あのね、ぼくは神さまですからね」と不気味に笑っていた。