『五キロおきに人間のつきあいができ、五キロおきに地面に寝転がって青い空を眺めた。目に沁みるような青い空だった。そして美人に会うとゆっくり観察し、うまくいくと一緒にお茶を飲むこともできた。』
初めての異国での、頼るものもないたった一人の旅。マルセイユに着いた当初の語学力について筆者は、『ぼくのフランス語はとんでもなく下手』と書かれています。不安要素を数え上げればきりがないはずなのに、なんと楽しそうなのか。初読時、ニューヨークへ旅行に出かけたはいいものの、英語がまったくわからず、異常に寡黙な4泊6日を過ごした直後だった私は、エッセーから伝わってくるこの明るく晴れ晴れとした感じに、ひどく驚かされたものでした。
指揮者ってすごい
ブザンソンの国際指揮者コンクール一等入賞を足掛かりに、筆者は世界的指揮者への長い階段をどんどん駆け上がっていきます。後半になると、カラヤン、バーンスタインなどといった大御所の名前も登場します。一般の人間との埋められない溝が実はそこにはあるのですが、ヨーロッパでの生活の様子や、要所要所で挿入される家への手紙文とともに、肩ひじ張らないユーモアのある文章で書かれるので、気後れすることなく読み進められます。