また、指揮者コンクールで課せられる課題のくだりは、実に興味深いものでした。オーケストラを聴きに行くと、指揮者はただタクトを振っているだけに見えなくもないのですが、もちろんそんなわけはなく、すべての楽器の音を聞き分けて指示を出しているのですね。どんな聴感覚を持っているのか想像もつきませんが、指揮者ってこんなにすごいことをクリアして当たり前なのかと、感服せずにはいられません。
美しい音楽と美しい花
最後に中盤のこの一節を紹介したいと思います。小澤さんが武者修行に出たのは、まだドイツが東西に分かれていたころ。移動の途中でボンを通り、戦争の生々しい跡とそこに咲く花を目にしたときの文章です。
『戦争はまだ終わっていないし、これからも起こらないとはいえない。どうして、もっとこの世には美しい音楽があり、美しい花があるということを信じないのだろうか。』