【本の話をしよう】
私は読み狂人。朝から晩まで読んで読んで読みまくった挙げ句の果て、読みに狂いて黄泉の兇刃に倒れたる者。そんな読み狂人がさっき表に出ると中途半端な家の庭に藤の花が咲いていた。
藤の花を思ったのか
そのとき読み狂人は、やあ、藤の花が咲いているなあ、と思ったように思う。
なぜそう思うかというと、先月も先々月もそこを通ったが藤の花は咲いておらず、ただただ汚らしい雑木があるばかりであったからなような気がするが、それはあくまでも後付けの理屈であって、もしかしたら別の理由で、やあ、藤の花が咲いているなあ、と思ったのかも知れない。
というかもっと言うと、やあ、藤の花が咲いているなあ、と思ったのではなく、ああ、藤の花が咲いているなあ、と思ったのかも知れないし、さらには、藤の花が咲いているなあ、と思うことは思っただろうけれども、本当は、その藤の花の下に蹲(うずくま)っていた猫を見て、パー、猫が居る! と思っていたのかも知れないし、いや、もしかしたら、その猫を追いかけてなぜかそこに猫が居ることに激怒して家の中から乳を丸出しにして暴れ出てきたおばはんのことをもっと思っていたのかも知れないし、その家の前を毎朝通って、私の家の方に歩いてくる、絶対にこちらを見ないし、挨拶をしないおばはんのことを思っていたのかも知れない。