【本の話をしよう】
昔、母、姉と私の3人で、ニューヨーク旅行に出かけたことがあります。どのくらい昔かというと、ちょうどシドニーオリンピックが開催されていた時期です。どうして3人でニューヨークへ、という話になったのかは、はっきりと覚えていません。母か姉のどちらかが行きたがり、私は特に何のビジョンもなくそれに乗っかってみた、という感じでしょうか。
当時母は英会話のカルチャースクールに通っており、姉は大学時代英米文学を専攻していました。ですので2人は、現地の人との意思疎通に、あまり不自由していない印象でした。でも私は英語についてははなから諦め、勉強をしなかった人間。おのずと無口な日々となりました。私が4泊6日の旅行中に口にした英語といえば、「はろー」「ぐんもーにん」「せんきゅー」「じゃぱにーず」「トイレどこですか(英語で)」税関で「サイトシーイング」くらいでしょうか。
しかもすべて「通じるだろうか?」とびくびくし、相手の顔色をうかがいながらの発声。怪しさ満点です。ヒアリングも駄目。バスの中などで聞こえてくる英語は、当たり前ですが一つも理解できません。流暢(りゅうちょう)な英会話の後に笑い声がすると、笑われているのは自分に違いないという被害妄想も膨らみます。