「snake_and_bird」(2012:カンバス、アクリル・顔料280.0×411.5、ヴァンジ彫刻庭園美術館蔵)。Courtesy_of_The_Vangi_Sculpture_Garden_Museum、岡野圭さん撮影、提供写真)。(C)Hiroshi_Sugito【拡大】
その結果、どうなったか。驚くべきことに、杉戸は主展示室の全体を、一台の巨大なピアノに見立てて作り上げる離れ業をやってのけた。この広い部屋の中心を占拠する、東屋(あずまや)ともひさしの連続とも、小部屋ともつかない出入り自由な構造体は、実は、杉戸の発案による作品の一部なのだ。しかも、それが黒鍵5つからなるピアノの音階、1オクターブ分を示しているのである。
ピアノとピアニストの駆け引き
思えば、ピアノは楽器である以前に「機械」であった。それまで存在したオルガンやハープシコードといった鍵盤楽器の弱点をすべて改良し、新たに秩序立てることでピアノは生まれた。その意味で、ピアノは、まさに完璧な秩序を体現している。しかし同時に、そのことでピアノは、奏者よりも巨大で新しい権力にもなった。具体的に言えば、ピアノを弾いているようで、ピアノに弾かされているというような事態が起こったのである。
このことを念頭におけば、本展での杉戸が、前川の幾何学的な建築という完璧な秩序=ピアノを前に、いかにそれを人である絵描き=ピアニストが弾きこなすか、という問題に直面していたことがわかるだろう。