私はドライブが好きでしたので、同乗しました。
行きは問題ありませんでした。左に日本海を見ながら、青空のもと、片側一車線のうねる山道を車は進みました。道中、ちょっとした峠のような場所を通りました。頼りない金属ロープが張られた向こうは、冬枯れの木がまばらに生える断崖絶壁で、「ここから落ちたら死ぬかも」などとのんきに考えていました。
姉を無事送り届けた帰り道、天候は急変しました。ホワイトアウトとはまさにあのこと。助手席から前方を見ても、1メートル先もわからない地吹雪、猛吹雪。車以外は全部白の世界です。そして行きにその峠道の断崖絶壁を目にしていることが、恐ろしさを倍増させました。絶対に道をそれてはいけない。けれども、頼りない金属ロープはおろか、雪に隠れて中央線も見えやしません。私は父に必死で車を停(と)めようと訴えました。けれども父は、非常にゆっくりとしたスピードながら、停まりはしませんでした。
そのとき、子供心に覚悟しました。「崖から落ちて死ぬか、遭難して死ぬかどちらかだ」と。